犬が吠える9つの理由とその目的
犬が吠えるのは、犬と人間との古くからの関係によるもので、吠えることを求められていたからです。過去には、吠えない犬は役に立たないとして処分されていた時代もあります。(※)
そのため、犬にとって吠えることは自然なこと・当たり前のことであり、同時にコミュニケーションの手段の1つであると言うことを理解しておきましょう。また、吠えるにはさまざまな理由があり、基本的に「無駄吠え」というものはありません。
とは言え、現代では必要以上に吠えられてしまうと近所迷惑などの問題もあり、人間側の都合になりますが、犬には吠えないようにしてもらう必要があると言えます。
そのためには、犬がなぜ吠えるのかを知ることが大切です。ここでは、犬が吠える9つの理由について見ていきましょう。
※参考:Psychology Today「The Barking Dog Blues: Why Dogs Bark and What to Do About It」
①要求したいことがある|吠えることで目的が果たせると学習したから
犬は人やほかの犬に対して、要求したいことがあると吠えることがあります。一般的には、以下のような場面で見られます。
・遊びたい
・ごはんが欲しい
・散歩に行きたい
・ハウスから出たい
吠えられて、そのお願いをつい聞いてしまったということがあるのではないでしょうか。
犬は「以前吠えたら要求が通った」ということを学習して、要求したいことがあるとすぐに吠えるようになっているのかもしれません。
②威嚇している|吠えることで争いを避けたい
犬は本来、争いごとが好きではありません。そのため、自分の体や大切な場所、食べものやおもちゃなどを守ろうとして、人やほかの犬を脅すように吠えることがあります。
基本的には実際に攻撃するつもりはなく、脅すことで寄せ付けないようにするための吠えです。また、このときに警戒や不安、恐怖と混じるようなこともあります。
吠えるだけでなく、低い唸り声を出して威嚇することも多いです。
③警戒している|吠えることで自分や仲間に注意を促す
インターホンが鳴ったり、来客があったり、散歩中に人やほかの犬を見つけて吠える犬も多いですが、警戒しているために見られる吠えで、自分や仲間(飼い主)にとって好ましくないことが起こらないように用心している状態です。
このときに、威嚇や不安、恐怖といったほかの心理も混じるようなことがあります。
以前、犬は番犬として飼われていたことが多かったように、吠えて仲間に知らせる(警戒)、追い払う(威嚇)という本能が働いてしまうのかもしれません。
④興奮している|感情の高ぶりが吠えに出ちゃう
興奮して吠えるのは、感情が高ぶっている状態で、嬉しいときに多く見られます。飼い主さんが帰宅したときや、犬自身が走り回っているときなどに見られるのではないでしょうか。
ただ、吠え始めて動きが活発になっていると、喜びに限らず警戒など、最初のきっかけで吠え続けてしまう場合もあり、楽しいのか、葛藤しているのかの感情のリンクを明確にするのは難しいということもあります。
とは言え、一般的には恐怖や警戒といった場面よりも嬉しい場面で見られることが多いです。
⑤不安になっている| 何かが気になって落ち着かなくて吠える
飼い主さんが出かけようとすると吠える、お留守番中に吠えると言った場合は、不安で吠えています。
あまりにも吠え続けたりする場合では、分離不安症(別離恐怖症)になっている可能性もあるので、獣医師に相談しましょう。
■分離不安症とは
飼い主さんと離れることに不安を強く覚え、留守番中に吠え続ける、物を壊す、粗相をする、自分の手足を舐めたり噛んだりするといった行動が見られる病気。飼い主さんがもう帰ってこないのでないかという不安感が大きいと考えられている
⑥つられて吠える|ほかの犬と同じ行動をしたくなってしまう
犬は、ほかの犬が反応している姿を見ると、自分もその反応を取りたくなってしまう習性があります。「社会的促進による行動」と呼ばれ、犬に限らず人間でも見られることです。
そのため、同居犬が吠える、外でほかの犬が吠えるといったことがあると、つられて吠えてしまいます。
⑦痛みがある|触られたくなくて吠える
犬は本来、痛みがあっても我慢してしまう生きものですが、痛みが強く我慢できないときや、痛みがあるところを触られたくないときに吠えることがあります。
吠え方がいつもと違う、近寄ろうとしたり触ろうとしたときに吠えるといった場合は、どこかに痛みや違和感がある可能性があります。
⑧遠吠えをしている|ほかの個体に対する応答や呼びかけ
遠吠えは、救急車のサイレンの音などに反応して起こるというイメージも強いと思いますが、遠吠えにもさまざまな理由があります。
■犬が遠吠えする理由
・仲間への応答、呼びかけ
・縄張りの主張
・音に対する反応
・不安や悲しみ、恐怖の表現
・体の痛みや不快感
救急車のサイレンで遠吠えする場合は群れ意識での共鳴や警戒など本能的な行動ですが、お留守番中に遠吠えをする場合は飼い主さんと離れた不安な気持ちが強く、寂しい気持ちから飼い主さんを呼ぶために遠吠えすることもあり、この場合は分離不安になっている可能性もあ。
不安な場合は、鼻なき、吠えや異なる種類、クーン、わんわん、ワオーン(遠吠え)などの連鎖が多く見られます。
⑨認知症を患っている|理由もなく吠える
シニア犬が吠えるときは、認知症を患っている場合もあります。認知症は老化と共に脳の働きが低下して起こるもので、認知症の犬がする行動には理由がありません。
認知症になると吠えるのは症状の1つとも言えますが、ほかにも昼夜逆転して吠えやすくなっていたり、何か要求したいことがある、体の違和感や痛みによるもの、不安が強くなるためなどがあります。
認知症は適切な治療が必要となるため、認知症が疑われるときは獣医師に相談しましょう。
ドッグトレーナーに聞いた!吠えるのをやめさせる方法や効果的なしつけ方
犬が吠える理由はさまざまですが、痛みや認知症などの場合はしつけで吠えることをコントロールすることが無理な場合もあります。そのため、吠えるのをやめさせるためのしつけやトレーニングは、健康な犬に行うことが大前提です。
では、健康な犬であった場合にどんなしつけやトレーニングが必要なのでしょうか。国際資格CPDT-KAを持つドッグトレーナーの鈴木さんにやめさせる方法やしつけ方を聞いてみました。
愛犬と関わる時間をきちんと確保することが吠えの改善につながる
今日はよろしくお願いします。飼い主さんの悩みの1つに、愛犬が吠えてしまって困るというのをよく聞くのですが、吠えるのをやめさせるには、どんなしつけが必要なのでしょうか?
吠えるのをやめさせるしつけの方法はその原因によって異なるため、一言で伝えることが難しいです。
しつけではなく、まず飼い主が自分の犬をよく観察し、吠えるきっかけやその状況(対象、場所、時間帯等)、吠え方と犬のボディランゲージ、頻度などを知ることが大切です。
これらをまとめると原因が分かってくることが多いです。
ただ、どのような吠えにも通じることは、十分な運動をすることです。犬が求めている運動や飼い主との遊び、関わる時間をきちんと確保できていなければ、吠えを改善することは難しいです。
原因を突き止め、原因に合わせて、ということが大切なのですね。
吠えるのをやめさせることに躍起になっている飼い主さんも多いでしょう。しかし、愛犬と向き合う時間をしっかり確保してあげることが吠えの改善につながっていくため、愛犬とのかかわり方をもう一度見直してみてくださいね。
犬が吠えるときの対策やしつけ方・トレーニング方法
では、吠える対象や何か特定の条件(場所、時間など)で吠える場合、関わる時間を確保することを除いて取り組むべき優先度の高い方法はどんなことがあるのでしょうか。
今回は、以下の対象や条件について対策やトレーニング方法を聞いてみました。
飼い主さんに吠える場合の対策
犬が飼い主さんに対して吠える場合、主に要求が理由となっています。
食べものが欲しいときや関わって欲しいときなどに飼い主に吠えることが多いです。
そのような場合、犬が吠えていたとしても無視をして放っておくようにしましょう。「吠えたら食べ物をくれた、遊んでくれた」というような学習をしないように心がけることが大切です。
また、犬は人に声をかけられたり、寄って来てくれたりすることだけでも、「要求に応えてくれた!」と感じる事が多いです。構わないことを徹底するようにしましょう。
「マテ」で動きを止められるようにトレーニングしたり、「クレート入れるようにする」ことで対処できる場合があります。クレートに入れて、タオルで覆って吠えやむまで待つように対処することも多いです。
愛犬に吠えられると、つい反応してしまいたくなりますが、そこをグッと我慢して徹底することが大切です。
ほかの人に吠える場合の対策
お散歩中や来客時など、ほかの人に対して吠えてしまうこともあるでしょう。
お散歩中は警戒心や恐怖心、来客時は警戒心や縄張りの主張、興奮などの理由で吠えることが多いです。
■お散歩中の場合
散歩中に声をかけられて吠える場合、人に対して警戒心や恐怖心を持って吠えているケースが多いです。
そのような場合は、他の人から食べものをもらう経験を積ませてあげると良いでしょう。「恐くて離れてほしい人」が「好きな人」になれば吠えなくなります。
ごほうびをもらうことが難しければ、飼い主が食べものを与えて、その状況が恐くないことを教えてあげましょう。何度も繰り返したり、長い時間一緒にしたりして、慣れていくことが理想的です。
散歩中にほかの人に声をかけられたりして吠えてしまう犬は少なくありません。犬が警戒するのは当然のことですが、「良い状況」に変えてあげましょう。
■来客時の場合
家に親戚や友人が来たときに吠える場合は、恐怖心の他に、縄張りの主張や興奮で吠える場合があります。
その場合、クレートに入れて興奮をしないようにしたり、夢中になれる知育玩具やガムなどを与えて長時間一人遊びさせたりすると、落ち着いて吠えにくくなります。
愛犬の習性や性格を理解して、適切な対処をしてあげることで吠えることは軽減するようです。
ほかの犬に吠える場合の対策
お散歩中や動物病院の待合室などでほかの犬に吠えることが見られる場合、さまざまな理由がありますが、警戒心やほかの犬に近づいて確認したい気持ちが上手く処理できずに吠えてしまうといった理由が多く見られます。
まずは、
散歩に犬の大好きな食べものを持っていき、人のそばで与える機会を作りましょう。犬は飼い主のそばにいることで自分にとって良いことがあると覚えていき、少しずつ人の動きなどを意識するようになります。
そこから飼い主の歩くペースに合わせ、ついてくるようにトレーニングを繰り返し、犬と出会っても気にせず回避できるようにしましょう。
また、動物病院では他の犬を回避することが難しいので、車で待機させたり、長時間夢中になれる食べものなどを使ったりして、周りの犬を気にしないようにしてあげましょう。
ほかの犬に吠えてしまうときは、回避させてあげることも大切なことなのですね。
他の犬に対して吠えないようにするためには、子犬の頃から他の犬がいる場所で過ごす経験を積み、過剰に反応しないように予防する社会化トレーニングを行なう事が何よりも大切です。
掃除機やインターホン(チャイム)に吠える場合の対策
掃除機やインターホン(チャイム)の音に反応して吠えるという犬も多いでしょう。
掃除機の場合は恐怖心や警戒心、インターホン(チャイム)の場合は縄張り意識や警戒、興奮などが理由で吠えることが多いです。
同じ「音」でもそれぞれ対策方法が異なるため、状況に合わせて対処してあげることが大切です。
■掃除機の場合
掃除機をかける際は、クレートなど限られたスペースに犬を待機させるようにしましょう。
そのとき、犬が夢中になれる知育玩具やガムなどを与えてあげると掃除機を気にしなくなります。
もしそれでも吠えてしまう場合は、別の部屋で待機させるようにしましょう。
■インターホンの場合
インターホンの音に吠える場合、縄張り意識が理由であることが多いです。
その他、飼い主に知らせようとすることや、飼い主の動きに興奮することが理由である場合もあります。
まずは、インターホンの音がなったら、食べ物を与える練習をしましょう。スマートホンなどに録音し何度も繰り返してください。この練習でインターホンはごほうびがもらえる音だということを教えましょう。
その後、インターホンが鳴ったあとに犬に待機していてほしい場所を用意し、その場にいる練習をしましょう。クレートがおススメです。インターホンがなったら、クレートに食べものを入れ、犬を中に誘導しましょう。
最終的に、インターホンの音がなったときは犬はクレートに入れ、中で食べものを食べて待機するように習慣づけていくと吠えにくくなります。
すでに吠えが習慣づいてしまっている場合は、インターホンの音量を小さくしたり音の種類を変えてからの練習がおススメです。
犬に慣れてもらうまでに時間はかかりますが、トレーニングを行うことで、吠えにくくすることは可能です。
毎日少しずつ練習してみましょう。
すぐに吠えるのをやめさせる方法はないが対処法はある
夜間に吠えられて、近所迷惑などを心配してすぐにやめさせたい場合などもあると思いますが、その場合吠えさせるのをすぐにやめさせられる方法はあるのでしょうか?
「すぐに」というのは難しいです。
このようなケースでよくある原因は①飼い主との分離による不安、②運動不足などによる要求が考えられます。
まずはどちらにも通じることですが、運動量を増やし、欲求を満たす事がはじめに行なう事です。
①の場合、飼い主と同じ部屋で寝る事からはじめ、だんだんと離れて寝る様にすること。暖かい湯たんぽのようなものをいれて安心させてあげること、などの練習が必要です。
②の場合、運動を増やす以外に、食事に時間をかけさせること、食事時間を遅らせてみること、朝日が入らないように遮光カーテンを使うことなどの対応もあります。
ありがとうございます。時間をかけてゆっくり教えてあげることが大切なのですね。
夜間に吠えられてしまうのは困ってしまいますが、日中に十分な運動をさせてあげることで夜に吠えることは軽減すると考えられます。また、近所に「犬を飼っていてご迷惑をかけることがあるかもしれない」と一言挨拶をしておくだけでもトラブルになりにくいでしょう。
【しつけるときの注意点】吠える犬にやってはいけないことと対処法
犬が吠えているときにやってはいけないことは、吠えを増やすようなことはしないことです。
犬が吠えている理由・気持ちに対して、成功体験を与えないことが大切です。
例えば、おやつが欲しくて吠えているときにおやつを与えれば、要求が通ったと学習して吠えは増えますが、ほかの犬に吠えているときにおやつを与えれば、吠えるより食べることに意識がいくため、吠えなくなります。
そのため、必ずしも吠えているときにおやつを与えてはいけないとかではなく、どんな理由で吠えているかを理解して、それに合わせて対処してあげましょう。
■吠える犬にやってはいけないことの例と対処法
- おやつが欲しくて吠える犬におやつを与える
…【対処法】そのときにおやつは与えず、飼い主さんのタイミングで後でおやつを与える
- ほかの人や犬に近づきたくて吠える犬をほかの人や犬に近づける
…【対処法】マテを教えたり、遠ざかる
- ほかの犬を追い払いたくて吠える犬をそのままにする
…【対処法】おやつを与えるなどして意識をそらす
- かまって欲しくて吠える犬にかまう
…【対処方】マテを教える。吠え止んでからかまってあげる
ただし、ほかの犬に近づきたくて吠えているのか、追い払いたくて吠えているのかの判断は難しいです。目安としては、歯を見せていたり低い声で唸るなど、威嚇する行動があるかどうかで判断しましょう。
吠えが増えてしまう、吠えたら犬にとって良いことがあるという経験は積ませないようにしましょう。このような経験を積めば積むほど吠えを覚えてしまい、修正が困難になります。
まとめ
犬が吠えるには理由があり、基本的には無駄吠えというものはありません。子犬の頃から吠えることを教えないこと、適切な環境設定や飼い方が大切ですが、成犬になってからも時間はかかっても吠えることを止めさせることは可能です。
■吠えることを改善するために大切なこと
・愛犬をよく観察して原因を探る
・愛犬と関わる時間をきちんと確保する
・十分な運動をさせてあげる
ただ、どうして吠えているかがわからないときは、理由が複雑に絡み合っていたりすることもあるため、一人で悩まずにドッグトレーナーなど専門家に相談しましょう。
また、痛みや認知症など、病気やケガを抱えている場合では、吠えることをしつけでどうにかできるものではありません。薬物療法、外科的療法、昼夜逆転を修正するといった方法を取り入れる必要があるため、動物病院を受診してくださいね。
<参考文献>
犬と猫の問題行動の予防と対応
ドメスティック・ドッグ
執筆者
- ペットライター
-
たかだ なつき
- JKC愛犬飼育管理士 / ペットフーディスト / 犬の管理栄養士 / ペット看護士 / ペットセラピスト / トリマー・ペットスタイリスト / 動物介護士 / ホリスティックケア・カウンセラー