公開 2020.05.13 更新 2020.06.29
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【獣医師執筆】犬のアトピー性皮膚炎とは?症状・原因・治療法|簡単にできる予防方法

【獣医師執筆】犬のアトピー性皮膚炎とは?症状・原因・治療法|簡単にできる予防方法

 

最近、ワンちゃんが身体を急に痒がり始めた。それは、もしかしたらアトピー性皮膚炎かもしれません。ワンちゃんに多いアトピー性皮膚炎について詳しく解説いたします。

※本記事は2024年10月までの情報を参考に作成しています。※本記事はINUNAVIが独自に制作しています。メーカー等から商品の提供や広告を受けることもありますが、コンテンツの内容やランキングの決定には一切関与していません。※本記事で紹介した商品を購入するとECサイトやメーカー等のアフィリエイト広告によって売上の一部がINUINAVIに還元されます。

アトピー性皮膚炎とは

掻いている犬アトピー性皮膚炎とは、本来であれば細菌などから身を守るために備わっている免疫が、花粉やダニなどの環境中から発生するアレルゲンに過剰に反応してしまいIgE(アレルギーの原因物質に対して働きかけ、身体を守る機能を持つ抗体)を大量に排出し、特徴的な位置に慢性的に皮膚に痒みを起こしてしまう病気です。

環境からのアレルゲンではなく、普段口にする食物がアレルゲンとなる場合は、アトピー性皮膚炎とは言わず、食物アレルギーといいます。

アレルギーの子の中には、複数のアレルゲンに反応してしまう子もおり、そのため、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの両方になってしまうワンちゃんもいます。

そもそもアレルギーとは

ウイルス

ワンちゃんの身体には、人の身体と同様にウイルスや細菌が侵入してきた際にそれを排除するために免疫という仕組みが備わっています。入ってきたウイルスなどに対して身体は、抗体という武器を作り、それを排除します。

しかし、ワンちゃんによっては、その反応が過剰に起こってしまい、身体に害を起こす場合があります。それをアレルギーと言います。そして、そのアレルギーを起こす原因となるものをアレルゲンといいます。

アレルゲン

花粉、ハウスダスト、ノミダニ、薬品、食物 など

アレルゲンは様々なものがあります。アレルゲンが入ってくると、それに対してIgEいう抗体が作られます。

そして、そのアレルゲンが再度身体に入るとIgEは、マスト細胞という体に痒みを起こすヒスタミンという物質を持った細胞に働き、痒みを起こさせます。痒みが起こると皮膚をひっかいたりなめたりすることで、皮膚の表面が荒れて、皮膚のバリア機能というアレルゲンを防ぐ機能が低下して、さらにアレルゲンが侵入しやすくなったり、細菌やカビが増殖し痒みを起こすことで、症状が悪化したりしていきます。

アトピー性皮膚炎の原因となりやすい犬種

犬 集合

なりやすい犬種

柴犬、シーズー、ゴールデンレトリーバー など

アトピー性皮膚炎になってしまう原因としては、遺伝的な素因があります。

遺伝的にIgEを作りやすい体質のワンちゃんが、アレルゲンに対して強く反応してしまいます。

また、近年では、皮膚のバリア機能が低下する原因も遺伝が関わっていると言われています。アトピー性皮膚炎の発症年齢は、6カ月~3歳と若いころに発生する傾向があります。アトピー性皮膚炎になりやすい犬種としては、柴犬シーズーゴールデンレトリーバーなどです。

アトピー性皮膚炎の症状

掻く犬アトピー性皮膚炎の症状は、慢性的な痒みが特徴です。

アトピー性皮膚炎は、症状が出やすい部分が決まっています。

症状が出やすい部分

  • 手足の先端と付け根
  • お腹
  • お尻周り         など

最初は、なめるだけの症状の子も痒みがひどくなるにつれ、ひっかいたり、かじったり、こすりつけたりして自分で自分の皮膚を傷つけてしまいます。また、その結果、慢性的な皮膚炎となることで皮膚の色が黒ずみ、分厚くなっていきます。そのような皮膚は、皮膚のバリア機能が低下して、さらに細菌やマラセチアというカビなどの感染症が起こりやすくなったり、アレルゲンが取り込まれやすくなったりするため、より強い痒みを起こしてしまいます。

アトピー性皮膚炎の診断

動物病院と犬犬のアトピー性皮膚炎の診断法は、問診身体検査皮膚検査アレルギー検査などがあります。

問診

問診をする前に、まずワンちゃんの犬種年齢が大切です。
上記のようにアトピー性皮膚炎を疑う場合は、多くが若い年齢でおこり、また起こりやすい犬種がわかっているからです。

そして、次にいつから痒くなったのかが重要です。例えば、長く続く痒みであったり、毎年同じ時期に痒みが出る場合は、アトピー性皮膚炎の可能性が考えられます。

身体検査

身体検査では、上記のような特徴的な部位の痒みがないかを確認します。

また、同時に痒みのない部位の皮膚状態も確認することでこの後の治療の選択を考えます。

また、食物アレルギーでは、目周りや口周り、背中などにも痒みが出るためその症状がある場合、食物アレルギーも考慮します。もし食物アレルギーが疑われる場合は、除去食試験といってアレルギーがおこしずらいフードへの変更をお勧めします。

皮膚検査

アトピー性皮膚炎の診断には、その他の痒みを起こす病気をしっかり除外することが重要となります。

他に考えなければいけない病気として、感染症(細菌、マラセチアなどのカビ、ダニやノミなどの寄生虫)やアレルギー性皮膚炎(食物アレルギーなど)などがあります。皮膚検査は、いくつか方法があります。

 

【皮膚検査】

  1. スタンプ検査
  2. 抜毛検査
  3. 掻破検査
  1. スタンプ検査

    ガラスの板やセロハンテープを皮膚に押しつけて、取れたものを染めて、顕微鏡で観察し
    ます。すると、細菌やマラセチアなどを観察することができます。

  2. 抜毛検査

    毛を抜いて、顕微鏡で観察します。この検査を行うとニキビダニという寄生虫が見つかる場合があります。

  3. 掻破検査

    皮膚を特別な器具でひっかいて、それで採れた皮膚の一部を調べたりする検査があります。ニキビダニや疥癬などの寄生虫が見つかる場合があります。

アレルギー検査

アレルギー検査現在は、血液検査によってアレルギーの可能性の有無やアレルギーの場合のそのアレルゲンが何かを推測することができます。アトピー性皮膚炎の診断に用いられるアレルギー検査には、一般的に①アレルギー強度検査②アレルゲン特異的IgE検査などがあります。

  1. アレルギー強度検査

    痒みの原因にアレルギーが関わっているのかを調べることができます。症状が一部であったり、判断が難しかったりする場合に検討します。

  2. アレルゲン特異的IgE検査

    アトピー性皮膚炎の場合は、この検査によってどのアレルゲンに対して体が免疫反応を過剰に起こしているかを調べることができます。

アレルギー検査を行うことで、一見して病気が診断できたかのように思えますがその解釈には注意が必要です。

なぜなら、例え花粉に対して検査がひっかかっても、それが今の症状の原因であるかはまた別の話になるためです。

また、アレルギー検査の結果は、年々変化してく場合もありますし、環境中のすべてのものを調べるわけではないので検査で調べられるもの以外が原因である場合もあります。また検査費用も高額なため、私の場合アレルギー検査はアトピー性皮膚炎の診断の補助と考えて、行うかをご家族と相談して検討しています。

アトピー性皮膚炎の治療

犬 治療アトピー性皮膚炎の治療は、基本的には一生涯付き合っていく治療になります。

そして、治療のゴールは痒みを起こさなくなることではなく、ご家族から見てワンちゃんがこれくらいの痒みなら快適に過ごせていると思える強度の治療法を探すこととなります。

そのため、その時その時のワンちゃんの痒みの程度やご家族の家庭環境などに合わせて、適切な治療を選択していくこととなります。

治療法

  • 薬をあたえる内服治療
  • シャンプーや塗り薬を用いた外用治療
  • 食餌療法
  • 減感作療法
  • アレルゲンの回避

などがあります。

1.内服治療

【内服治療】

  1. ステロイド
  2. 抗ヒスタミン剤
  3. シクロスポリン
  4. オクラシチニブマレイン酸塩(アポキル)
  5. 抗生剤、抗真菌薬、駆虫薬

① ステロイド

ステロイドは、痒みを抑えるのにはとても効果的で比較的安価なお薬です。

しかし、ステロイドは長期的に投与すると様々な副作用(肝障害や医原性のクッシング症候群など)を起こしてしまいます。使用する場合は、その他の治療と合わせることで可能な限り低い用量で使用します。

② 抗ヒスタミン剤

マスト細胞にアレルゲンがつくとヒスタミンが分泌され、それがヒスタミン受容体という部位に働くと痒みがでます。

抗ヒスタミン剤は、そのヒスタミン受容体に働くのをブロックすることで痒みが出るのを抑えます。そのため、抗ヒスタミン剤は、すでに起こってしまっている痒みに対しては効果がありません。

しかし、ステロイドと比べて長期的に使用しても副作用は少ないため、ステロイドとともに使用することでステロイドの使用量を減らすことが期待できます。

③ シクロスポリン

シクロスポリンは、免疫抑制作用をもつ薬で、ステロイドと同様に痒みを抑える作用を持ちます。そして、ステロイドと比較して長期使用による副作用が少ないため、アトピー性皮膚炎の治療に用いられています。

しかし、ステロイドは即効性が高いですが、シクロスポリンは効果が出るまで1,2カ月かかるため、その間はステロイドを使用することがあります。

④ オクラシチニブマレイン酸塩(アポキル)

近年使用され始めた新しい薬で、ステロイドと同様に即効性があり、痒みもしっかりと抑えてくれる薬です。

また、ステロイドに比べると比較的副作用が少ないことも特徴で長期的な管理にも使いやすい薬です。しかし、費用面では、かなり高価なお薬のためご家族にかかる費用的な面では負担が多い薬でもあります。

⑤ 抗生剤、抗真菌薬、駆虫薬

これらの薬は、皮膚検査で細菌やマラセチア、ニキビダニなどの感染症が見つかった場合に用います。

これらの感染症から来る痒みは、しっかり検査し、適切な治療すればなくすことができます。そのため、ただ上記の薬で痒みをとるだけではなく、感染症についても同時に治療することで痒みをコントロールしやすくなります。

2.外用療法

【外用療法】

  1. シャンプー療法
  2. 塗り薬

①シャンプー療法

シャンプー治療アトピー性皮膚炎の痒みを起こす原因に皮膚のバリア機能の低下が関わっています。

そのため、皮膚の状態を良くすることがアトピー性皮膚炎の治療にもつながります。皮膚は、人と同様その子その子、その時その時で状態は変わります。

ドライスキンや脂漏症など皮膚の状態に合わせて、セラミドを含む保湿シャンプーなどを選択し、コンディションを整えます。また、感染がある場合は、薬用シャンプーには細菌やカビを落とすものもあるので、検査を行い適切に使用します。

どのシャンプーを使うと効果的なのかは、見ただけではなかなか判断が難しいです。一度効果があったシャンプーでも使い続けると逆に悪化してしまう場合もあるので、定期的にシャンプーの種類や頻度について獣医師に相談するといいでしょう。

② 塗り薬

アトピー性皮膚炎に用いられる塗り薬は、多くがステロイドなどを含んでいます。

ステロイドの外用薬は、その部位の痒みを抑えてくれ、また内服のステロイドに比べて、全身性の副作用がなく、痒がる部位が少ない場合は長期的にも使いやすいです。しかし、やはりステロイドが含まれているため盲目的に同じ部位に塗り続けるとその部位の皮膚が薄く弱くなってしまうこともあるので、使用は最低限に留めるべきでしょう。

3.食事療法

ドッグフード食物アレルギーの場合は、食事をアレルゲンの含まないものに変更することでアレルギー症状が改善します。

アトピー性皮膚炎の場合は、その原因が環境からのため食事を変更してもそれほど意味が内容に思われます。

しかし、最近ではいくつかのメーカーさんがアトピー性皮膚炎の子に向けたフードを作っています。それらのフードには、オメガ3脂肪酸などの皮膚に良い作用を持つ成分を多く含んでいたり、皮膚を健康な状態に保つのに必要なバランスでできていたりするため、治療の基礎として試してみるのもいいでしょう。

4.減感作療法

減感作療法とは、アレルゲンを少量ずつ定期的に注射することで身体をアレルゲンに慣らす(免疫寛容という状態にする)治療法です。

この治療が効果のある場合、痒みの症状が改善するため投薬などの治療負担を減らすことができます。現在日本ではアレルミューンという薬が発売されており、これはダニが原因でアトピー性皮膚炎になっている場合に効果がある薬です。これは使用する前に効果が期待できるかを血液検査で調べることができるため、アトピー性皮膚炎が疑われるワンちゃんの場合は、検査をしてみて、効果がありそうな場合試してみるのもいいかもしれません。

5.アレルゲンの回避

掃除アトピー性皮膚炎の原因は、ダニや花粉などの環境中にあるものです。それらからなるべくワンちゃんを遠ざけることができれば症状は改善します。

そのため、普段からワンちゃんがいる部屋をこまめに掃除洗濯したり、クッションやカーペットを防ダニ機能の持つものに変えたりすることである程度は接触を減らすことができるかもしれません。また、シャンプーや皮膚をこまめに清拭してあげることも接触を減らすのに有効なため行ってあげましょう。

アトピー性皮膚炎の治療費

お金アトピー性皮膚炎の治療費は、痒みの程度によって上記の様々な治療のうちどれを用いるかによって異なります。

基本的には一生涯の治療になるため獣医師と相談してどの治療を用いるかを決めていきましょう。

アトピー性皮膚炎の予防

犬 シャンプーアトピー性皮膚炎は、遺伝的な理由が関与するためなかなか発症を予防することは困難かもしれません。

しかし、適切な治療管理をすることで痒みの症状の再発を防ぐことはできます。アトピー性皮膚炎と診断された場合は、一度痒みが収まってもその後もシャンプーや食事、環境改善などをしっかり行うことが予防となるでしょう。

まとめ

犬 治療痒みは、命に直接かかわることは少なくとも、生活の質を大きく下げてしまいます。

長い治療になるからこそ、獣医師とよくコミュニケーションをとってご家族にもワンちゃんにも良い治療を選択してきましょう。

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獣医師 高橋 渉

執筆者

獣医師
高橋 渉

2011年北里大学獣医学部獣医学科卒後、都内と埼玉の動物病院に勤務。2018年東京都杉並区に井荻アニマルメディカルセンターを開院しました。犬猫に優しい病院作りを目指し、キャットフレンドリー、フェアフリーなどの取り組みを行っています。(所属学会:小動物歯科研究会比較歯科学研究会所属

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