ワちゃんが急に吐いて、下痢をし始めた。食欲もなく元気もなくなってきた。他にも
- 気持ち悪そうによだれを垂らす
- 血便や水っぽい下痢をする
- 上半身だけ伏せをし、下半身を上げている
などの症状が見られた場合、それはもしかしたら犬の急性膵炎かもしれません。
今回は、犬に多い急性膵炎という病気について解説いたします。
ワちゃんが急に吐いて、下痢をし始めた。食欲もなく元気もなくなってきた。他にも
などの症状が見られた場合、それはもしかしたら犬の急性膵炎かもしれません。
今回は、犬に多い急性膵炎という病気について解説いたします。
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目次
口から入った食べ物が胃の次に通るのが十二指腸という腸管です。膵臓は、その十二指腸に付着している臓器で、その機能としては下記のものが挙げられます。
犬の膵臓の役割
などの役割があります。
膵液は、膵臓で作られる消化液です。膵液は、アミラーゼ・リパーゼ・トリプシンなどを含み、三大栄養素のタンパク質・脂質・炭水化物すべてを分解することができます。
食べ物が十二指腸に達すると十二指腸からの指令により分泌されます。
上昇した血糖値を下げるインスリンというホルモンを産生、分泌します。その他にも血糖値を上げるグルカゴンやその二つを抑制するソマトスタチンというホルモンを分泌します。
膵炎は、本来であれば腸管に排出されて働く消化液が様々な原因により誤って膵臓内で働くことで膵臓自身を障害し、強い炎症を引き起こす病気です。
膵炎は、急性膵炎と慢性膵炎に分けられ、ワンちゃんでは急性に発症することが多いです。ネコちゃんでは慢性膵炎が多く、長期にわたって膵臓がダメージを受けることで膵臓の機能が障害され、インスリンが分泌できなくなり、糖尿病になることもあります。
膵臓を私は、不完全な臓器と呼んでいます。それは、膵臓に炎症が起こるとその炎症は、膵臓に留まらず、周囲の腸管や肝臓に波及し、最悪の場合さらに全身性の炎症を起こし、重篤化していってしまうためです。
急性膵炎は、軽度なものから重度のものまであり、初期症状はよく起こる胃腸炎と変わらないように見えますが、場合によっては命を奪う重篤な疾患になりうるので注意が必要です。
急性膵炎の注意点
犬の急性膵炎の症状
などの症状が見られます。
嘔吐や下痢、食欲不振などこれらは胃腸炎など多くの病気に共通する症状で、ご家族が通常の胃腸炎だと思い様子を見ていたが改善せず、調べてみたら急性膵炎だったということも多々あるので注意が必要です。
人間の場合、急性膵炎の痛みは大変強く立っていられないほどの場合もあるそうです。ワンちゃんでも腹痛がある際に「祈り姿勢」という上半身だけ伏せをし、下半身をあげた状態になる場合もあります。
また、上記で触れたように急性膵炎は重篤化することがあります。重篤化してしまうと、全身性の様々な症状を起こし、腎不全や多臓器不全、播種性血管凝固症候群(DIC)などによって最悪の場合死亡することもあります。
上記の犬種は急性膵炎を起こしやすいです。特にミニチュアシュナウザーでは、脂質代謝異常を持っている子が多く、また遺伝的に急性膵炎を起こしやすいとも言われており注意が必要です。
急性膵炎の原因は、ワンちゃんの場合直接的な原因を特定できないことがほとんどです。
しかし、急性膵炎を起こす可能性を高める要因はいくつかわかっており、下記が挙げられます。
犬の急性膵炎の原因
などが犬の急性膵炎の原因となります。
特に私は、高脂肪な食餌を与えた際によく起こるように感じています。
ワンちゃんの誕生日などで、普段与えない特別な犬用ケーキやごはんを与えてみたら、次の日にお腹を壊して調べてみると急性膵炎になっていた子はよく出会います。
異物などによって膵臓の出口が閉塞され、膵液が逆流し、急性膵炎を発症する場合もあります。
犬の急性膵炎の診断
などの検査を行います。
問診では上記のようなリスク因子、症状の有無やその他の病気がないかを確認します。クッシング症候群や糖尿病などの場合、たくさん水を飲み、おしっこをする症状が見られるので、問診で飲水量などを確認する場合もあります。
一般状態の確認とともに、腹部を触診することで腹痛を有無や程度を確認します。また、頻回の嘔吐や下痢を起こしている場合、脱水を伴っている場合もあるので、その確認などを行います。
便検査によって、便の細菌の状態や寄生虫卵の有無などを確認します。私は、急性膵炎の検査に異常がなく、胃腸炎と仮診断された場合に便の細菌の状態などにより必要な投薬を検討するうえで行います。
急性膵炎の症状は、他の様々な病気と共通するため、全身の血液検査を行います。
一般の血液診断項目では、肝酵素の数値やビリルビンが上昇していることがあります。他に下痢や嘔吐による電解質や血糖値の異常が見られるかもしれません。
また急性膵炎のリスク因子となりうる高カルシウムや高トリグリセリド血症の有無を確認します。そして、膵炎を診断するうえで重要な項目が膵特異的リパーゼという酵素の血中濃度の測定です。この数値の上昇は、急性膵炎を強く示唆します。
しかし、症状が出てから数値が上がるのにタイムラグが生じる場合があるので、一度の検査で見つからない場合があり、慢性の膵炎の場合などでは、膵炎であっても数値が上がらないこともあるので注意が必要です。
CRPという急性の炎症の項目を測定することで、膵炎の炎症の程度やその後の治療のモニターとして使うことができます。
レントゲン検査によって腹腔内の臓器、特に腸管全体の確認をすることができます。
ワンちゃんでは、実はこっそり食べてはいけないものを食べており、それがレントゲンで見つかる場合もあります。超音波検査では、膵炎を示唆する膵臓の異常を確認できる場合があります。
他に炎症による腸管の腫大や胃腸の運動性低下の有無を確認することができます。
最終的に膵炎を確定診断するためには、開腹して直接膵臓の一部を取り出し調べることで炎症を確認することになりますが、その行為自体が膵炎を助長する可能性があるため私は積極的に行ってはいません。
しかし、膵臓に腫瘍を疑うものや嚢胞が見つかり、診断上必要な場合は、針を臓器に刺してその細胞を採取する針生検などを実施することを検討します。
急性膵炎の治療は、基本的には点滴や投薬による支持療法が中心となります。
急性膵炎は、上記のように重篤化する場合もあるので急性膵炎が疑われる場合は、可能な限り早く積極的な治療を行います。
多くの場合、胃腸運動が停滞しているため内服ではなく、注射薬が用いられます。また、ホルモン疾患などの基礎疾患が見つかっている子ではその治療も検討します。
犬の急性膵炎の治療
の治療を行います。
下痢や嘔吐によって水分が失われている場合が多いため、積極的な点滴治療を行います。
状態によっては血管を確保し、入院下で静脈点滴を行います。電解質の異常などが見られている場合は、その補正も同時におこないます。
異物などがないことが確認された場合、制吐剤によって嘔吐の症状を抑えます。多くの場合、マロピタントという嘔吐中枢などを抑えるような強い制吐剤を注射します。
急性膵炎では、ワンちゃんではわかりづらいですが多くの場合腹痛を起こしているため、私はその痛みの程度によって鎮痛剤を選択、使用します。
その他の薬としては、抗菌剤や制酸剤、胃腸運動促進剤など様々ありますがそれらの使用も必要に応じて適宜検討します。
日本では、ブレンダZという薬が犬の膵炎に対する薬として新しく認可されました。この薬は、基礎研究のデータとしてはその有効性が確認されており、今後広く使用されていく可能性があります。
急性膵炎になった犬の食餌について
などの方法でドッグフードを与えます。
嘔吐や下痢を生じているワンちゃんに対しては、数日間の絶食絶水がすすめられていました。しかし近年の研究では長期間の絶食絶水は、腸管に対して悪影響であると言われており、私は可能な限り早期に食餌を与えるようにしています。
食餌する際、高脂肪食はリスクが高いため、低脂肪な療法食を選択し少量頻回から開始します。最近では、リキットタイプで低脂肪かつ高栄養なものもあり、適宜使用しています。
口からの採食が困難な場合は、チューブを鼻などから食道に向けて装着し、そこから食餌を与える場合もあります。そして、症状が改善されていくようならば徐々に量を増やしていき、数日かけて通常量に戻していきます。
健康な状態に戻った後も急性膵炎の再発のリスクを考慮し、可能な限り低脂肪食の療法食をお勧めします。
※療法食については、獣医師と相談の上与えるようにしましょう。
膵炎の治療費は、その膵炎の重症度によって大きな差が生じます。
比較的軽度のものであれば数日間通院での支持療法のみでも改善する場合もありますが重篤なものであれば入院下での長期的、積極的な治療が必要になります。
また、ブレンダZなどの新薬は薬価が高いため、どうしても治療費は高額になりやすいです。しかし、その子の膵炎が重篤なものかどうかは、初期の段階でわかる場合もありますがわからない場合も多く、どうしても見積もりには幅が出るでしょう。
そのため高額になってしまう可能性も考慮し、備えておくと安心です。
犬の急性膵炎の予防
などの予防法・対策法があります。
急性膵炎は、いつ起こるかはわかりませんが上記のようないくつかのリスク因子が判明しているので、その中で対処できるところは積極的に対処することが予防につながります。
近年多くのスーパーなどでいろいろなドックフードが販売されており、中には嗜好性は高いが高脂肪なフードになってしまっているものもあります。
他にも良かれと思って、人が食べるような美味しいお肉や揚げ物、生クリームを与えてしまうことがありますが脂肪分が高く危険ですのでやめるようにしましょう。
拾い食いやゴミあさりの危険があるワンちゃんならば、常に生活環境にも気を配るべきでしょう。肥満傾向の子であればカロリーを控えたフードに変更するようにし、体質の改善に努めましょう。
急性膵炎はドッグフードの選び方や、人間の食べ物を与えないなど、食事を見直すことで予防することができます。
ワンちゃんの急性膵炎は、比較的多く見られる疾患です。しかし、時に命に係わる重篤な疾患でもあり、早期発見・早期治療が大切です。
ワンちゃんに下痢や嘔吐が起こったら早めに動物病院へ受診しましょう。また、急性膵炎は再発することも多い疾患ですので、一度膵炎を起こした子に再び膵炎を疑う症状が出た場合は、その可能性を考慮し、早めに対応しましょう。
犬の急性膵炎まとめ
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執筆者
2011年北里大学獣医学部獣医学科卒後、都内と埼玉の動物病院に勤務。2018年東京都杉並区に井荻アニマルメディカルセンターを開院しました。犬猫に優しい病院作りを目指し、キャットフレンドリー、フェアフリーなどの取り組みを行っています。(所属学会:小動物歯科研究会・比較歯科学研究会所属)