公開 2021.01.08 更新 2021.02.08
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【獣医師執筆】犬の肝臓・膵臓の癌(悪性腫瘍)とは?症状・治療・原因など徹底解説

【獣医師執筆】犬の肝臓・膵臓の癌(悪性腫瘍)とは?症状・治療・原因など徹底解説

人と同様ワンちゃんのお腹にある肝臓と脾臓(ひぞう)という臓器は、腫瘍ができやすい臓器の一つです。

その中でも肝臓や脾臓にできる癌(悪性の腫瘍)は、皮膚や口の中などの目に見える部位ではないため、癌ができても進行するまで気づくことが難しく、発見されたときには治療が困難となってしまっていることがあります

今回は、肝臓や脾臓にできる癌について詳しく解説いたします。これを読んでいただくことで、肝臓や脾臓の癌について学び、病気の早期発見、早期治療に繋げていきましょう。

獣医師 高橋 渉

執筆者

獣医師
高橋 渉

2011年北里大学獣医学部獣医学科卒後、都内と埼玉の動物病院に勤務。2018年東京都杉並区に井荻アニマルメディカルセンターを開院しました。犬猫に優しい病院作りを目指し、キャットフレンドリー、フェアフリーなどの取り組みを行っています。(所属学会:小動物歯科研究会比較歯科学研究会所属

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肝臓・脾臓の癌について

肝臓は、身体に必要なたんぱく質を作ったり、身体に有害なものを解毒化したり、胆汁という消化液を作る働きを担う重要な臓器です。ワンちゃんの肝臓は、葉っぱのように6枚に分かれており、胃と接し、胆のうという臓器を包むように配置しています。

ワンちゃんの肝臓にできる癌の発生率はそれほど高くなく癌全体の1.5%以下とされています。しかし、結節性過形成などの良性の腫瘍などを加えると比較的多く見られます。

また肝臓の癌は、肝臓そのものからの癌よりもその他の部位からの癌の転移も起こることが多いため注意が必要です。肝臓の癌としては、肝細胞癌、胆管細胞腫瘍、肝カルチノイドなどが見られます。

脾臓は、血液を作ったり、貯め込んだりしている臓器で免疫機能にも関わっています。脾臓は、胃と接する臓器でワンちゃんの左側の一番後ろの肋骨の辺りから臍の辺りに向かってあります。

脾臓の腫瘍は、良性の腫瘍である場合もありますが癌の場合も多く、その中でも血管肉腫という癌が発生率は高いです。

① 肝細胞癌

ワンちゃんにできる肝細胞の癌の中では、最も多く全体の50%以上が肝細胞癌です。肝細胞癌がよく起こる犬種としては、ミニチュアシュナウザーがあげられます。またメスのワンちゃんよりもオスのワンちゃんでの発生が多いとの報告がされています。

② 胆管細胞腫瘍

胆管細胞腫瘍は、ワンちゃんの肝臓の癌の中では二番目に多い癌です。胆管細胞腫瘍がよく起こるとされる犬種としては、ラブラドールレトリバーが挙げられます。また、オスのワンちゃんよりもメスで多いとされています。胆管細胞腫瘍は、リンパ節や肺などのその他臓器への転移率が高いため、注意が必要な癌です。

③ 肝カルチノイド

カルチノイドとは、神経内分泌細胞由来の癌です。発生率は、上記の2つほど高くなく肝臓原発腫瘍のうち14%程度とされます。肝細胞癌と胆管細胞腫瘍が高齢のワンちゃんで発生しやすいのに対して、肝カルチノイドは比較的若齢でも見られる特徴があります。そして、肝カルチノイドはリンパ節や腹膜、肺などでの転移が起こりやすい癌です。

④ 血管肉腫

血管肉腫は、血管に由来する癌です。脾臓にできる腫瘍の半分近くを占めます。その他に心臓や肝臓、皮膚にもできる癌です。

血管肉腫も転移が起こりやすい癌で、特に脾臓の血管肉腫の80%程度が肝臓への転移を起こすと言われています。

肝臓・脾臓に腫瘍ができた場合の症状

肝臓や脾臓に腫瘍ができた場合、多くの場合は無症状で経過することが多いです。しかし、癌の進行の程度、種類や位置、その大きさなどによって様々な症状が現れます。

① 肝臓の腫瘍の症状

  • お腹が張る
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 食欲不振
  • 活動性の低下
  • 黄疸
  • 貧血

などが起こります。

しかし、これらの症状が出るときには多くの場合、腫瘍が進行してしまっているケースが多いです。肝臓の腫瘍では、進行によって肝機能が異常をきたすと、黄疸によって、尿や皮膚、粘膜の色が黄色に変化し、腹水などが貯留すると一見太ったかのようにお腹が張ったようになることもあります。

また、肝臓の腫瘍の位置によっては、大きくなるにつれて、胃などの消化器が圧迫されることで食欲不振や嘔吐などの症状が見られるようになります。

② 脾臓の腫瘍の症状

  • お腹の張り
  • 貧血
  • 食欲不振
  • 活動性の低下
  • 急性の虚脱

などがあります。

脾臓の腫瘍の恐いところは、血管肉腫のような癌ではなく血腫などの良性の腫瘍の場合でも、時に破裂することで急性に症状が見られることです。

そして、急性に出血することで出血性ショックが起こり、適切な処置が行われても死亡してしまう場合もあります。肝臓の腫瘍でも破裂による出血は見られることがありますが、多くは脾臓からの出血です。

肝臓・脾臓の腫瘍の診断について

犬 病気

これら癌の診断には、問診、身体検査、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、CT検査、針生検や組織生検などです

① 問診

問診では、上記のような症状の有無を伺います。しかし、腫瘍が発生してすぐでは多くの場合は症状がなく、上記のような症状に気付くことは困難です。

② 身体検査

身体検査では、お腹の張りや目や口の粘膜の色などに特に注意して診察します。ときに症状がなくても獣医師がお腹を触ることで癌を見つけられる場合もあるので注意深く触ります

③ 血液検査

血液検査では、これらの腫瘍に気付くときはある程度進行してしまっている場合が多いです。肝臓の腫瘍ができた場合、ALTやALPなどの肝数値の上昇や赤血球や白血球数の異常が見られる場合があります。しかし、肝臓に癌ができても、血液検査の肝臓の項目が上がらないときはたびたびあります。

また、脾臓単独に腫瘍ができていても血液の数値として変化が見られない場合が多いですが、脾臓の腫瘍が大きくなり出血を伴った場合は、急激な貧血を起こしていることがあります。

また、腫瘍が見つかったのちに全身の状態の経過を確認する上では、血液検査が必要となるため、定期的な検査が推奨されます。

④ レントゲン検査

レントゲン検査を用いることで、大きくなった腫瘍によって胃や腸管の位置が変わる変化や肝臓脾臓の形の変化、時に胸の中などの転移の有無などを見つけられる場合があります。しかし、腫瘍の詳細についてはレントゲンのみで診断することは困難です。

⑤ 超音波検査

超音波検査は、動物病院で行われる検査の中で腫瘍を初期に見つけやすい検査です。

超音波検査を行うことで腫瘍がまだ小さい段階でもその発生を確認することができる場合があります。また、肝臓の腫瘍では、その形態的な特徴から塊状、結節性、びまん状と3つに分類され、それぞれの形態から腫瘍の種類を類推できる場合があります。

また、最近では肝細胞腫瘍に対して、超音波造影剤(ソナゾイド)を用いた超音波造影検査が行われ、腫瘍の良性悪性の可能性について鑑別することができる場合があります。

⑥ CT検査

CT検査を行うことで腫瘍の大きさや、進行の程度などを詳細に確認することができ、外科手術を行う上では治療計画の作成やそのリスクの程度などの判断を行う上では大変優れた検査になります。

しかし、多くの場合は全身麻酔や鎮静をかけて行わなければならず、その検査そのものにある程度のリスクが伴います。

⑦ 針生検

針生検は、注射針を身体の外から腫瘍に刺して、その中に入った細胞を検査することで腫瘍の種類について知ることができます。しかし、腫瘍の種類によっては検出されづらいものもあり、また針に入る細胞は腫瘍全体のうちごくわずかなものになるため、もし異常な細胞が検出されなくてもその腫瘍は問題がないとは言えません。

また、針を刺す検査には出血のリスクが伴います。特に脾臓などの血液を多く含む臓器の腫瘍に対して針を刺すことは、大量の出血を起こしうる可能性もあるため十分に注意が必要です。

⑧ 組織生検

組織生検は、その腫瘍を一部ないし全部を外科的に摘出して腫瘍の種類を調べる検査です。この検査を行うことで腫瘍の種類を調べることができ、また腫瘍そのものを摘出することで治療することにもなりえます。

しかし、腫瘍を摘出するためには全身麻酔を行い、お腹を開けなければなりません。

そのため、リスクが伴うことは覚悟しなければなりませんし、もし他の臓器に転移が起こっていた場合は、その後化学療法などを併用する必要があるかもしれません。

肝臓・脾臓の腫瘍の治療について

犬 病気

癌の治療は、外科治療、化学療法などが腫瘍の種類や進行の程度などによって獣医師と相談の上行われます

① 外科治療

肝臓の一部位に限局した塊状の腫瘍や脾臓のみに起こっている腫瘍の場合は、その臓器を腫瘍ごと切除することで長期に延命することができるかもしれません

手術を行う上では、十分な血液検査と必要に応じてCT検査などを用いて転移の有無をよく調べたうえで、切除可能と判断された場合に行います。しかし、切除可能と判断された場合でも全身麻酔をかけて手術を行うことは、常に命のリスクを伴うことを十分に認識しなければいけません。

肝臓や脾臓などの摘出は、術中の急激な血圧の変化をもたらしたり、出血を起こしたりするリスクもあります。そして、その変化に耐えられず急変する可能性もあります。手術を行う上では、担当の獣医師と十分に相談し、手術を行うメリットとリスクについて納得したうえでお願いするようにしましょう。

② 化学療法

すでに癌が転移してしまっている場合や完全に癌を摘出することができなかった場合、化学療法が有効な癌の場合は、化学療法剤の投与が適応となります。

化学療法と聞くと多くのご家族がその副作用について心配されます。もちろん種類やその子その子によっては大きな副作用が出る場合もありますし、全く副作用のない化学療法剤は今のところは私の知る限りございません

しかし、使われる化学療法剤の種類や量によっては、副作用がそれほど見られない場合もありますし、うまくコントロールすることができれば通常の生活を送ることもできます。

化学療法を行う上でも外科治療の場合と同様に、その薬を用いることでどれほどの延命が期待できるのか、そして、どのような副作用が出る場合があり、出た場合はどうするのかなどを十分に理解した上で行うようにしましょう。

肝臓・脾臓の腫瘍の治療費について

計算

治療費については、選択される治療法によって大きく異なります。一度の外科手術により根治する場合は、行われる施設やワンちゃんの大きさにもよりますが十数万円~程度で治療が終わる場合もありますが、一度の切除で根治しない場合や長期に及ぶ化学療法の場合より高額となる場合もあります。

肝臓・脾臓の腫瘍の日常ケア

肝臓や脾臓の癌と診断され、治療が困難となってしまった場合、その子のその子の状態に応じた対症療法を行い、苦痛を可能な限り軽減できるよう考えてあげましょう。

① 食欲不振

肝臓の癌などによって胃が押される場合や腫瘍そのものによる全身的な状態の悪化によって食欲不振を呈(てい)する場合があります。そのような場合下記の方法を検討します。

・食欲を高める薬(食欲増進剤)

食欲増進剤としては、ステロイド剤や胃腸の動きに働くタイプや神経に作用するタイプなどの薬を試すことが多いです。また、気持ち悪さがあるような子では吐き気止めの薬などを用いることもあります。それらがうまく効果を示すようであればそれらを用いてなるべく少量でもカロリーが取れる専用のフードなどを用いて体重が落ちないように維持してあげましょう。それらの薬を用いても食欲が出ない場合も多々あります。

・カテーテルの留置

上記の内服薬で食欲が出ない場合、希望があればカテーテルを鼻やのどから直接胃に通すカテーテル留置を検討します。カテーテルを入れてあげることで食欲に関わらず一定のご飯を与えることができれば、状態の悪化を遅らせることができるかもしれません

しかし、このような治療をご希望されないご家族もいらっしゃいます。ワンちゃんがカテーテルを入れている姿を見るのはとても辛く、多くのご家族が生きているのか生かしているのかということで苦悩されることがあります。

私もそのようなことで悩むことは多々あります。この点については正しい答えは残念ながらないことなので、ご家族と悩みを共有し、担当の獣医師とよく話し合って選択しましょう。

② 腹水貯留

肝臓の癌では、肝機能の悪化や肝臓の癌の位置によって循環が滞り、お腹に水が溜まってしまうことがあります。お腹に水が溜まってしまうと食欲や活動性の低下、呼吸がしづらくなるなどの症状が現れます。

そのような場合、私は、症状の程度によってはお腹の水を抜く処置を行います。お腹の水を抜く処置は、お腹に直接針を刺し、シリンジを用いて吸引し抜いていきます。

しかし、この処置についても血圧の変化や身体に必要な成分の排出などのリスクが伴うため、獣医師が必要と判断した場合に行います。

肝臓・脾臓の腫瘍の予防

病気

残念ながら肝臓や脾臓の癌をできないように予防することは困難です。そのため、最も大切なことは、すべての癌で言えることですが早期発見早期治療です。早期に発見し、治療することで根治を目指すことが最大の予防と言ってよいでしょう。

しかし、お腹の中の癌の多くは、ある程度進行しないと通常の暮らしの中では気づくことができないです。そのため、定期的な検査を行うことが大切です。7歳以上の高齢のワンちゃんでは半年に一度は、血液検査とともに超音波検査を行うことで癌の早期発見を目指しましょう。

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高橋 渉

2011年北里大学獣医学部獣医学科卒後、都内と埼玉の動物病院に勤務。2018年東京都杉並区に井荻アニマルメディカルセンターを開院しました。犬猫に優しい病院作りを目指し、キャットフレンドリー、フェアフリーなどの取り組みを行っています。(所属学会:小動物歯科研究会比較歯科学研究会所属

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