公開 2020.05.17 更新 2020.06.29
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【獣医師執筆】犬の膝蓋骨内方脱臼(パテラ)とは?原因・症状・治療|悪化を避ける予防策

【獣医師執筆】犬の膝蓋骨内方脱臼(パテラ)とは?原因・症状・治療|悪化を避ける予防策

ワンちゃんが急にけんけんし始めた…それはもしかすると膝蓋骨内方脱臼(パテラ)かもしれません。ワンちゃんに多い膝蓋骨内方脱臼について詳しく解説します。

※本記事は2024年10月までの情報を参考に作成しています。※本記事はINUNAVIが独自に制作しています。メーカー等から商品の提供や広告を受けることもありますが、コンテンツの内容やランキングの決定には一切関与していません。※本記事で紹介した商品を購入するとECサイトやメーカー等のアフィリエイト広告によって売上の一部がINUINAVIに還元されます。

犬の膝蓋骨内方脱臼(パテラ)とは

膝蓋骨内方脱臼膝蓋骨内方脱臼は、日々診療しているとよく見られる疾患です。

膝蓋骨とは、人にもある、いわゆる「膝のお皿」と呼ばれる骨です。

この骨が大腿骨という太ももにある骨の滑車溝という溝の上をスムーズに滑ることで、足を曲げ伸ばしすることができます。

しかし、ワンちゃんの中には、このお皿が通常の位置から内側に外れてしまう子がいます。そうなってしまう病気を膝蓋骨内方脱臼と言います。膝蓋骨のことを英語でパテラというため、獣医師はよくこの病気をそう呼びます。まれに内側ではなく、外側に外れることもあります。膝の骨が本来とは異なる場所に外れることで、骨と膝の軟骨が接触し、痛みが起こります。そして、慢性的にそれが繰り返されることで変形性関節症という別の病気に進行してしまいます。

変形性関節症とは、骨関節炎とも呼びます。変形性関節症とは、様々な原因によって、骨関節の軟骨がすり減って、固くなったり、棘のような形に骨が変形したりしてしまう病気です。骨が変形してしまうと通常は、元の状態に戻ることはできないです。膝蓋骨内方脱臼などの整形外科疾患などの他に変形性関節症になってしまう原因は、

  • 犬種
  • 肥満
  • 加齢

などがあります。変形性関節症は、関節に炎症を伴うため膝の中にある前十字靭帯などの靭帯を痛めやすくなってしまいます。

また、膝蓋骨内方脱臼は、重症度がいくつかのグレードに分かれています。その中でも重篤な状態の場合は、成長過程で後ろ足がねじれるように変形してしまいます。この状態の場合も膝の靭帯を痛めやすくなってしまいます。

犬の膝蓋骨内方脱臼の原因となりやすい犬種

小型犬

なりやすい犬種

トイプードルチワワポメラニアンなどの小型犬種 など

膝蓋骨内方脱臼は、多くは犬種などの遺伝的な原因で、骨や筋肉が成長不良を起こすことで発生します。また、時に滑ったり、強い圧迫を受けたりするなどの外傷によっても起こります。

本来は、膝蓋骨が収まっている滑車溝と言われる溝の部分が通常よりも浅いことが脱臼の要因の一つになります。この膝蓋骨内方脱臼は、トイプードルチワワポメラニアンなどの小型犬種に多く見られます。また、片足のみの場合もありますが、左右両足で発症します。左右で起こっている場合、左右で重症度が異なることがあります。

犬の膝蓋骨脱臼の症状

疲れている犬この病気の症状は、膝蓋骨の脱臼の程度によって軽度な場合から重度の場合まで様々です。比較的軽度の場合や体重が軽い場合は無症状な子も多く、診察の際に偶発的に見つかることも多いです。膝蓋骨内方脱臼でよく見られる症状として、下記のものがあげられます。

よく見られる症状

  • 散歩を嫌がる
  • 動きたがらない
  • ジャンプしたがらない
  • 足を頻繁に後ろに伸ばす
  • 痛みで鳴く
  • けんけんする(破行) 
              など

などです。症状を起こすのは運動しているときや寝起きなどの動き始めにおこることが多いです。

犬の膝蓋骨内方脱臼の診断

犬 治療膝蓋骨内方脱臼の診断の方法には、問診触診レントゲン検査などが用いられます。

① 問診

病気を診察するうえで、まずそのワンちゃんの年齢や犬種はとても重要な要素となります。最近では、別種の純潔のワンちゃん同士を掛け合わせた、ミックス犬とも呼ばれる様々な犬種が生まれており、時に膝蓋骨内方脱臼をもっているリスクが高い犬種か獣医師が初見でわかりづらい時もあります。

そして、問診においては、足をいつから、どういったときにどのような動きをさせたかというのもとても重要な情報です。診察室で同じような症状があるのであれば、獣医師にも伝わりやすいですが痛みの程度が軽い場合は、ワンちゃんは病院では痛みを隠して通常の動きをすることが多いです。足のあげ方や歩き方によっても獣医が考える痛みの位置などは異なるので、もし可能であれば動画をとって獣医師に提示してみるといいでしょう。

② 触診

問診の後、触診を行います。犬の膝蓋骨内方脱臼は触診で検査することができます。そして、その触診でどの程度膝が悪いのかをグレード分けします。犬の膝蓋骨内方脱臼は、程度によって下記の4つのグレードに分けられます。

グレード1:膝蓋骨は通常は正しい位置にあるが手で押すと脱臼し、手を離せば正常な位置に戻る。

グレード2:膝蓋骨は通常は正しい位置にあるが膝を曲げるか手で押せば脱臼し、膝を伸ばすか手で押せば整復する。

グレード3:膝蓋骨は常に脱臼したままで、手で戻すことは可能であるが手を離せば脱臼してしまう

グレード4:膝蓋骨は常に脱臼しており、手で戻すこともできない。

また、同時に膝の靭帯を痛めていないか、関節炎があるかを診るために、膝を屈曲させたり、膝の腫れを確認したりします。

③レントゲン検査

レントゲン検査を用いることでその位置をわかりやすく知ることができ、同時に関節や骨の変形の程度などの変形性関節症の有無を確認することができます。

グレード4などの子の場合は、膝の骨の変形だけでなく、その上の太ももの骨や下のすねの骨などが大きく曲がっているのが確認できるかもしれません。

また、症状が長く続いている子の場合は、膝の関節に骨棘という骨の変形が見られることも多いです。

しかし、検査のタイミングによっては、グレード2や3の場合に膝が正しい位置に来ている場合あるのでグレードの判定は、実際に触って行います。

犬の膝蓋骨内方脱臼の治療

膝蓋骨内方脱臼の治療は、外科治療内科治療があります。

1.外科手術

手術する犬膝蓋骨内方脱臼の治療は、グレードが2以上の場合外科手術が検討されます。外科手術を行うことで膝を正しい位置に留め、変形性関節症への進行や靭帯の損傷を止めることができます。

しかし、外科治療を行っても、すでに擦り減ってしまった軟骨や変形した骨自体は元の状態に戻すことはできないため、もし可能であれば若いうちに病気を見つけ、手術を行うことで膝の寿命を延ばすことができるでしょう。外科手術は様々な術式を組み合わせて行うことが多く、その子の膝の状態に合わせて手術方法を獣医が選択します。外科手術の方法としては、下記のようなものがあります。

外科手術の方法

① 縫工筋、内側広筋の開放
② 滑車溝造溝術
③ 脛骨粗面転移術
④ 関節包縫縮
⑤ 骨切り術
などが挙げられます。

① 縫工筋、内側広筋の開放

これらは、膝のお皿を内側に引っ張っている筋肉であり、これを一旦くっついている端を切ってしまいます。すると膝を内側に引っ張る力が和らぎ、脱臼しづらくなります。その後、切った端をテンションのかかりづらい場所に縫いなおします。

② 滑車溝造溝術

造溝術とは、膝のお皿が収まっている太ももの骨の滑車溝という部分をクサビやブロック型などの形に切って除去し、除去した元の部分を深くしてから再度戻す手術です。こうすることによって溝が深くなってお皿が外れづらくなります。

③ 脛骨粗面転移術

脛骨とは、太ももの下にある「すね」がある骨のことです。脛骨粗面とは、その脛骨にある膝蓋骨の靭帯が付着している部分です。この部分が脱臼している子は、本来ある位置より内側に向いてしまっています。そこで脛骨粗面の一部を切って、位置をずらすことで靭帯が内側に引っ張られるテンションを緩和します。

④ 関節包縫縮

関節包とは、関節を包んでいる膜のことです。この膜が脱臼してしまう子の場合、たるんでしまっていることがあるためその部分を脱臼する反対側から縫い縮めます。

⑤ 骨切り術

グレード4のような重度の場合には、成長に伴いねじれるように骨が変形してしまう場合があります。そのような場合には、大腿骨や脛骨を一旦切って角度を変えて、再度骨を繋げる骨切り術という手術が行われます。

2.内科治療

犬と薬膝蓋骨内方脱臼は、外科治療をしないと重症度にもよりますが徐々に関節をすり減らし、変形性関節症へと進行していきます。

しかし、手術費用や年齢、他の疾患により外科治療を選択できない場合、内科治療を行います。内科治療の目標は、進行を緩徐にし、なるべく痛みを起こさせず、普通の生活を送ってもらうことにあります。

内科治療の方法

①安静
②消炎剤による疼痛管理
③軟骨保護剤の使用
④サプリメント
⑤体重管理
⑥運動管理
⑦環境整備
などが挙げられます。

① 安静

まず痛みが出ている場合は、安静にさせましょう。

散歩なども可能な限りせず、できれば可哀そうかもしれませんがケージレストといってその子が生活するうえで最低限のスペースにお部屋を狭くし、動かさないようにしましょう。そして、痛みが取れてきてから徐々に通常の生活に戻してあげるようにしましょう。

② 消炎剤による疼痛管理

今まさに痛みがある場合は、痛み止めとして消炎剤を用います。多くの場合、非ステロイド性抗炎症剤というお薬を使用します。慢性的で痛みを繰り返したり、飲み薬が苦手な子だったりする子の場合は、最近では1回でより長く効くタイプのお薬もあるので検討します。

しかし、この非ステロイド性抗炎症剤も、胃腸や肝臓、腎臓などで副作用があるため、なるべく投与量や期間は短く慎重に与える必要があります。また、この薬を飲むことで痛みがとれることで、走り回ったり、飛び跳ねたりさせないように注意しましょう。

③ 軟骨保護剤の使用

ヒアルロン酸などの注射を膝に注入したり、軟骨における炎症を抑える注射を定期的に行ったりする治療法もあります。この治療は、効果のある子では定期的に行うことで投薬なく生活できる場合があります。

④ サプリメント

グルコサミンコンドロイチンと言われる成分は、人でもよく膝腰の痛みに対するサプリメントとしてよく用いられていますがワンちゃんにも効果がうたわれているものがあります。

効果についてはサプリメントのため言及できませんが、内科治療の補助として試してみてもいいでしょう。最近では多くのものが売られており、費用やその中に含まれる成分量もまちまちなため、納得して長く続けられそうなものを選択しましょう。

⑤ 体重管理

体重管理は、とても重要な治療です。体重の重い子は、膝への負担も重くなってしまい、例え膝蓋骨内方脱臼の病気がなくても変形性関節症になってしまいます。そのため、体重は常に適正に保つように心がけましょう。

体重管理の方法は、何よりも第一に朝晩の決まった量のご飯以外は与えないことです。いくら優秀なダイエットフードを用いても、それにおやつを追加すれば簡単にその効果を帳消しにしてしまいます。そのため、まずは余分に与えないことです。これは、ご家族みなさんで気をつけなければなりません。

もし、何かご褒美などを与える場合は、朝晩のご飯の分から与えるようにしましょう。また、最近では、ダイエットフードに上記のようなグルコサミンコンドロイチンの成分が入ったものもあるので、試してみてもいいかもしれません。

⑥ 運動管理

慢性的な痛みがある子では、運動をしたがらず寝てばかりになったり、普通に歩いているように見えて実は痛い方の足に負重をかけないように歩いていたります。その状態が長期間続くと、足の筋肉が落ちて太もものあたりの筋肉を触ると痛みがある方と無い方では、筋肉の厚みに差が出てしまっている子もいます。

そして、筋肉の機能が落ちることで関節には更なる負担がかかってしまい、痛みが出てしまいます。そこで、ゆっくりとでいいのでリードを用いて短時間でも歩かせたり他にもトレッドミルと言って水中を歩かせるようにしたりしましょう。

また、歩くことを拒否してしまう子では、人が手助けしながら、まず立たせて足をつけてやることや屈伸運動をゆっくりしてあげるだけでも、筋肉を使うことができ、リハビリになります。

⑦ 環境整備

環境整備とは、ワンちゃんが普段生活している場所をなるべく人でいうバリアフリーな環境にすることです。例としては下記のものが挙げられます。

  • なるべく上下動を避けるために、階段に柵を設けること
  • ソファーやベッドから飛び降りないように途中に階段を設けること
  • 床が滑らないように滑り止めマットをひく。

などを行いましょう。また、ワンちゃんの足の裏の肉球周りの毛はなるべく短くカットすることで、滑らないようにしてあげましょう。

犬の膝蓋骨内方脱臼の治療費について

お金

治療費

外科治療費:十数万円から3,40万円

内科治療費:月数千円程度

膝蓋骨内方脱臼の治療費は、上記のうちどの治療を行うかによって異なります。外科治療は、施設や重症度、選択する手術の方式にもよりますが十数万円から3,40万円ほどになります。重症度が高く、靭帯が切れてしまったりしている場合や骨切り術が必要な場合は、外科の費用はより高くなるでしょう。

内科的な治療では、薬やサプリメントの費用で月数千円程度になります。

犬の膝蓋骨内方脱臼の予防について

体重計に乗る犬もし膝蓋骨内方脱臼と言われた場合、その膝の重症度によって予防の意味が変わります。というのは、膝蓋骨内方脱臼は、多くの場合生まれ持って起こっているため、予防というのは悪化させて、症状が出ることを避けることを意味します。

そのため、グレードが高い場合は、外科を早期に行うことが関節炎の発症を予防することにつながるため、推奨されます。また、グレードが低い場合は、上記のように体重管理や環境管理などを症状が出る前に行うと良いかもしれません。

まとめ

犬と飼い主膝蓋骨内方脱臼は、とても多い病気です。そのため、若いうちに動物病院で診断してもらい、もしあるようならば重症度に応じて早期に治療を検討しましょう。

 

 

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獣医師 高橋 渉

執筆者

獣医師
高橋 渉

2011年北里大学獣医学部獣医学科卒後、都内と埼玉の動物病院に勤務。2018年東京都杉並区に井荻アニマルメディカルセンターを開院しました。犬猫に優しい病院作りを目指し、キャットフレンドリー、フェアフリーなどの取り組みを行っています。(所属学会:小動物歯科研究会比較歯科学研究会所属

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