うちのパグちゃんが急に倒れて発作を起こした…それはもしかするとパグ脳炎かもしれません。パグに多いパグ脳炎について解説します。
【獣医師執筆】パグ脳炎(壊死性髄膜脳炎)とは?原因・症状・治療法|発病を防ぐ予防策
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パグ脳炎とは
パグ脳炎とは、壊死性髄膜脳炎という病気の別称で、パグに多く見られる病気のためパグ脳炎と呼ばれています。
髄膜とは、頭の骨の頭蓋骨の内側にある膜で、硬膜、くも膜、軟膜の3つの膜に分かれており、脳を包み保護する膜です。この膜と脳の大脳と言われる間の部位もしくは大脳に炎症が起き、その炎症が広がり、悪化することで、脳が壊死、つまり脳細胞が死んでしまうことで様々な神経症状をおこす病気です。
パグ脳炎の原因と起こりやすい犬種
起こりやすい犬種
パグ、シーズー、マルチーズ、ポメラニアン、ペキニーズ、チワワなど
パグ脳炎の原因は、未だにわかっていませんが免疫疾患の可能性が考えられています。
パグ脳炎は、パグ以外にシーズー、マルチーズ、ポメラニアン、ペキニーズ、チワワなどの特定の小型犬種に起こる病気であるため、遺伝子が病気の発症に関わっていると言われています。多くが1~3歳という若い年齢で起こります。
パグ脳炎の症状
パグ脳炎の症状は、下記のものが挙げられます。
パグ脳炎の症状
・ふらつき
・意識なく倒れて、震える(発作)
・視力の低下、消失
・くるくる回る(旋回運動)
・昏睡
など
これらの神経症状が徐々に現れ、最終的に死亡してしまいます。
パグ脳炎の診断
パグ脳炎の診断は、問診、身体検査、血液検査、MRI検査、脳脊髄液検査、病理組織学的検査などがあります。
パグ脳炎の診断
- 問診
- 身体検査
- 血液検査
- MRI検査
- 脳脊髄液検査
- 病理組織学的検査
① 問診
パグ脳炎の診断をするうえで、まず犬種と年齢は重要な要素になります。
上記のようなパグ脳炎が起こる犬種なのか、年齢は起こりやすい年齢なのかを着目しておきます。そして、パグ脳炎は、まず発作によってご家族が異常に気付くことが多いです。
発作を起こす疾患は多く、まずご家族に発作が起こった時どのような状態だったか、どれくらいの時間だったかなどよく聞いて、発作の原因の鑑別を行っていきます。
② 身体検査
身体検査では、発作以外の神経症状の有無を調べていきます。身体の知覚や運動神経、視覚や触覚などに異常がないかを調べることで神経のどの部分に異常が出ているかをおおまかに調べることができます。
③ 血液検査
発作を起こす原因には、脳以外の原因として、腎疾患、肝疾患、その他内臓の疾患などさまざまあり、それらを除外するために行います。
④ MRI検査
MRI検査は、脳の病気を調べるのに適した検査で、様々な発作を起こす疾患の鑑別を行う上でとても有意義で重要な検査になります。
この検査を行うことでパグ脳炎の場合、その特徴的な異常を確認でき、その他の検査と合わせて診断を行うことができます。
⑤ 脳脊髄液検査(抗GFAP自己抗体検査)
脳脊髄液は、脳、脊髄の周りを満たす液体のことで、この液体を調べることで病気の診断を行います。この脳脊髄液中にグリア繊維性酸性蛋白(GFAP)という蛋白質に対する抗体が検査で検出されるとパグ脳炎の可能性が高くなります。
⑥ 病理組織学的検査
病理組織学的検査は、病気になっている部分を切除して、直接顕微鏡で観察し、その変化を見る検査です。この検査を行うことで多くの病気の確定することができます。
しかし、パグ脳炎は、脳の疾患のため生前にこの検査を行うことはありません。
パグ脳炎の治療
パグ脳炎の治療は、大きく分け2つになります。
パグ脳炎の治療
①免疫を抑える免疫抑制療法
②てんかんの発作を抑える治療
しかし、パグ脳炎は、これらの治療を行ってうまく言った場合でも、数カ月から3年程度の寿命とされています。
① 免疫抑制療法
プレドニゾロンやシクロスポリンという飲み薬を免疫が抑えられる量で投与します。これらの薬剤のうち特にプレドニゾロンというステロイドの薬は、長期的に使用することで、肝臓や皮膚など体の多くの部分に副作用をおこすため、使用する場合は定期的に獣医に全体の状態を確認してもらいましょう。
② 抗てんかん薬
抗てんかん薬は、この病気の特徴である発作を抑えることで、病気を治すというより、生活の質を高めるために用います。様々な種類の抗てんかん薬があり、発作の頻度などによって、用量を増やしたり、種類を変更、追加したりすることで発作が起こる回数や時間をコントロールします。
パグ脳炎の治療費
治療費
薬:月々約数千円
入院治療:約数万円
この病気は、予後が悪く、診断されてからなくなるまでの期間が治療を行ってもそれほど長くないのが現実です。治療費は、その子その子の大きさにもよりますが薬にかかるお金で月々数千円ほどでしょうか。もし、発作が重くなり病院で入院治療を行った場合は、その手段にもよりますが数万かかる場合もあるかもしれません。
パグ脳炎の予防
パグ脳炎は、遺伝が関わる病気のため予防することはできません。
もし、発症してしまった場合、ご家族としては可能な限り早く診断を行い、治療を始めることで、発作などで生活の質が落ちることを防いであげることしかないかもしれません。また、食事中に小麦(グルテン)を含んだ食事を与えている場合、脳炎の原因にグルテンが関わっている可能性があるため、それを防ぐためグルテンを含まないグルテンフリーのものに変更するといいです。
まとめ
パグ脳炎は、発症してしまったそのワンちゃんはもちろん、そのご家族も大変つらい病気です。
しかし、気持ちを強く持ち、今ある命のために、しっかりと向き合って日々の暮らしを大切に、一日一日をより良くするために獣医師とこまめにコミュニケーションをとって頑張っていきましょう。
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執筆者
- 獣医師
- 高橋 渉
2011年北里大学獣医学部獣医学科卒後、都内と埼玉の動物病院に勤務。2018年東京都杉並区に井荻アニマルメディカルセンターを開院しました。犬猫に優しい病院作りを目指し、キャットフレンドリー、フェアフリーなどの取り組みを行っています。(所属学会:小動物歯科研究会・比較歯科学研究会所属)