犬の肥満とは|太ってはいけない理由
犬の肥満とは、適正体重を20%以上うわ回り、体を触ったときに皮下脂肪が過剰についている状態のことを言います。
この適正体重とは、成犬と言える月齢になる頃の体重が目安※となり、皮下脂肪のつき具合はBCS(ボディ・コンディション・スコア)という栄養状態を表す指標を使うのが一般的です。※過剰に太ったり痩せたりしていない場合に限る
肥満とされた犬の体内では、蓄積した脂肪が内臓の働きを低下させ、重くなった体が足腰に負担をかけています。
そのため、肥満の犬は適正体重を維持している犬に比べて循環器や呼吸器や関節の疾患など様々な病気のリスクが高まり、寿命が最大2年半短くなる可能性があるという研究結果もあるほどです。※参考1
特に、関節の疾患を発症すると痛みから動くことが困難になり、運動量が低下することでさらに体重が増えやすくなるという悪循環に陥るため、愛犬が肥満の場合は早期に適切なダイエットを行わなければなりません。
ぽっちゃりしているとかわいいという気持ちはよくわかりますが、その結果よく見かけるのは、
・肥満による呼吸器疾患で咳が止まらず息が苦しくなってしまうこ
・大好きなお散歩もお休みせざるえなくなるような腰や膝の関節を痛めてしまうこ
たちです。これでは楽しい毎日を送ることは難しいと言わざるを得ないですよね。
犬の肥満の主な原因|食べ過ぎ・栄養過多の食事・運動不足
犬が肥満になる主な原因は、摂取カロリーが消費カロリーを上回っているからです。
犬が健康的に生きていくために必要な1日のカロリー量には目安があるため、ドッグフードの量が適切ではなかったり、おやつや人の食事を間食としてむやみに与えていると、食べ過ぎで太る原因となります。
また、食事の内容は愛犬のライフステージや体調の変化に合わせなければならないため、成長期を過ぎた成犬に子犬用フードを与えていたり、代謝が落ちるシニア犬にカロリーの高いフードを与えていては栄養過多です。
特に去勢・避妊手術の後は、ホルモンバランスの変化で食欲が旺盛になる一方で代謝は低下しやすいため、太りにくいドッグフードを選ぶ必要があります。
必要な運動量の目安は犬種や体の大きさによって異なりますが、毎日近所をゆっくりと散歩するだけでは摂取カロリーに見合う運動量になっているとは限りません。
もともと必要運動量が多い大型犬は、特に運動不足に注意が必要です。
犬の肥満の注意点|太って見えるのは病気の可能性も
犬の肥満は病気のリスクを高めますが、中にはすでに病気を患っている影響で体型が変わり、肥満のように見えているケースもあります。
考えられる病気には以下のようなものがあり、病気が原因である場合は急激に太ったように感じることが多いです。
これらの病気は若い犬でも発症することがありますが、特に7歳を超えシニア期に入った愛犬は注意が必要です。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は、「副腎」という腎臓のそばにあるホルモンをつくる器官から、副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されてしまう病気です。
お腹が張っている・たるんでいる・膨らんでいるような症状がみられるため、肥満のように見えることがあります。
また、水を飲む量やおしっこの量が増えたり、毛が抜ける、毛や皮膚が薄くなるなどの症状が現れることも多いです。
発症原因には、腫瘍やステロイド系の薬の影響などがあります。
暑い季節でもないのに、水をたくさん飲むようになったり、ペットシーツがぐっしょり濡れるようになることが続くようであれば、かかりつけの獣医師に一度は相談してみましょう。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、気管の左右に存在する甲状腺が正しく機能しなくなり、ホルモンの合成や分泌が減ってしまう病気です。
食欲は低下しているのに急に太ってくる、元気がなくなるなどの症状が見られ、左右対称に毛が抜けたり皮膚にしわができるといった皮膚症状が出ることもあります。
また、皮膚が厚くなることで顔つきが変わったように見える犬もいます。発症原因は、甲状腺の炎症や萎縮などが多いです。
体をかゆがらないのに毛が抜ける、皮膚がごわごわしてくる場合は、よくある皮膚の病気とは違っているかもしれません。
かかりつけの獣医師に相談してみましょう。
肝臓病
肝臓の病気には、肝障害や肝炎など様々なものがあり、症状のひとつとして肝臓の肥大によりお腹が膨らむことがあります。
また、肝臓病が進行すると、血管から水分が漏れてお腹に水が貯まる「腹水」という症状が出て太ったように見えることもあります。
肝臓病を発症する主な原因は、ウイルスや細菌、寄生虫への感染や薬物などによる中毒、怪我や事故による腹部の損傷などです。
特徴的な症状が見られづらいのが肝臓の機能異常です。
そのため中高齢期を迎えたら、定期的に健康診断を行うのが早期発見につながります。
心臓病
心臓の病気には、僧帽弁閉鎖不全症や心筋症など様々なものがありますが、いずれも発症すると徐々に血液循環がうまくいかなくなり、血液中の水分が溢れ出して肺やお腹に貯まるため膨らんで見えることがあります。
その他、咳をしたり疲れやすくなるなどの症状も見られます。
主な発症原因は加齢ですが、前述した通り肥満は循環器の病気の発症リスクを高めるため、心臓病は肥満と特に関連の深い病気と言えるでしょう。
犬の心臓病は咳や疲れやすいなどのこれまでとは異なる様子が見られるようになる場合もありますが、暑さや疲れから急激に進行してしまう場合もあります。
最近では血液検査で心臓の異常を測定することもできるため、健康診断の時に相談してみることをおすすめします。
愛犬の肥満度をチェック|BCSスコア別対処法
愛犬の肥満度を確認するためには、WSAVA(世界小動物獣医師会)が定めるBCS(ボディ・コンディション・スコア)を指標にします。
BCSは、愛犬の体に触れて肋骨や骨周りの皮下脂肪の付き具合を確かめたり、ウエストの形から愛犬の栄養状態を評価するものです。
上記画像を参考に、以下の手順で行ってみてください。
愛犬が長毛種の場合、体に触れる際は毛を抑えたり毛の中に手を入れて、できるだけ肌に触れるよう意識しましょう。
■BCSチェック法
- 愛犬の体を横から見てウエストのくびれ度合いを確認する。
- 愛犬の体を上から見て腰のくびれ度合いを確認する。
- 愛犬の肋骨に触れて骨がどの程度浮き出ているか確認する。
- ウエストに触れてくびれ度合いを確認する。
- 腰の骨に触れてどの程度浮き出ているか確認する。
この後は、『BCS4(太り気味)』『BCS5(太っている)』『愛犬がBCS3(標準)』について、スコアに合わせた対処法を紹介するので合わせてチェックしてください。
愛犬がBCS4(太り気味)の場合
愛犬がBCS4体型であり、元気も食欲も普段と変わったところがない場合は、食事と運動量を見直して徐々に適正体型まで戻していきましょう。
筋肉をつけて健康的に痩せられるようなダイエット向きのドッグフードを選び、食事量とおやつの量は毎回計量して正しい量を与えます。
また、運動量も無理のない程度に増やす必要があるので、詳しくは記事後半「犬の肥満を解消・予防する方法」をご覧ください。
なお、愛犬の体重増加が一気に進んだり、食欲が落ちるなどの変化が見られたときは、病気が隠れていることもあるためできるだけ早めに動物病院を受診しましょう。
愛犬がBCS5(太っている)の場合
愛犬がBCS5体型の場合は、肥満の原因が何であれ一度動物病院を受診し、愛犬の体型について相談しましょう。
病気が隠れている可能性もあるので、以下のポイントを確認して獣医師に伝えるようにしてください。
■病気が隠れていないかチェック!
- 食欲が落ちていることはないか
- 体重の増え方が急ではないか
- 元気はあるか
- 動きが鈍くなってはいないか
- 水を飲む量や尿量に変化はないか
- 皮膚や被毛の状態に変化はないか
- その他下痢や嘔吐、咳など気になる症状はないか
上記に当てはまらない場合でも、適正体型まで減量できるようなフードや運動についての指導をしてもらう必要があるため、できるだけ早めの受診をおすすめします。
人のダイエットにも当てはまることかもしれませんが、健康を損なわないよう適正体重・適正体型に変えていくためには、ある程度の時間が必要です。
本人(わんちゃん)が痩せたいと思っていないわけですから、ご家族一丸となって取り組むことがとても大切です。
愛犬がBCS3(標準)
愛犬がBCS3(標準)体型の場合は、現状を維持できるように、おやつや人の食事などの間食の与えすぎには常に注意しましょう。
また、今後去勢や避妊手術をする予定である犬や、食欲旺盛で太りやすい犬種などは、肥満を予防しやすい高タンパク質・低脂肪のフードに変更してみるのもおすすめです。
定期的に愛犬の体型をチェックすることも続けてください。
犬の肥満の解消・予防法|食事と運動の管理が基本
愛犬が肥満を解消できるように、また肥満を予防するために飼い主さんができることを紹介します。
なお、健康のためには適正体型の維持だけではなく、元気なうちから定期的な健康診断を受けることも大切です。
特にシニア期の愛犬は、半年に1回程度は動物病院で健康診断を受けましょう。
肥満解消法①ダイエット用フードに変更しおやつの量を制限する
まずは、主食であるドッグフードをダイエット用の栄養バランスのものに変更しましょう。
今与えているフードの給餌量を減らしてダイエットすることもできますが、愛犬への負担が大きいうえに空腹からおねだりや拾い食いが増える可能性があります。
摂取カロリーを抑えつつ満腹感を得られる工夫がされているダイエット用のフードがおすすめです。
また、おやつを与えるのであればドッグフードをおやつとして1日分の給餌量の中から与えたり、できるだけ低カロリーなものを探してください。
与える量は、おやつのカロリーがフード1日分の10~20%以下になるようにしましょう。
ダイエットサポート用として、1つあたりのカロリーが表示されているおやつもあるのでそういったものを選ぶと管理がしやすいです。
以下の記事では、おすすめのダイエット用ドッグフードを詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
ダイエットドッグフードおすすめ16選!専門家が選ぶ低脂肪・低カロリー・肥満犬用フードは?【獣医師監修】
肥満解消方法②遊びで運動量を増やす
毎日の朝晩の散歩の他にも、愛犬とおもちゃで遊ぶ時間を設けて少しでも運動量を増やしましょう。
特に、引っ張りっこや取って来い遊びなどは、全身運動になりエネルギーを使うのでおすすめです。
シニア犬や持病があり激しい運動ができない愛犬には、おすわりや伏せをゆっくり繰り返すことでも運動になります。
また、ドッグプールや犬用のフィットネス施設などもあるので、利用するとよりダイエットに役立つでしょう。
以下の記事では、フィットネス施設の詳しい紹介や運動量がなかなか増やせない犬でも減量しやすい様々なダイエット方法を紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。
体調の関係で運動をさせるのが難しいこの場合は、散歩コースに緩やかな坂道を加えてみる、広くて真っ直ぐよりグネグネした道を選んでみるなどの工夫をしてみましょう。
また、散歩の時間を短くして回数を増やすなどの対策もおすすめです。
【獣医師監修】愛犬のダイエットを応援!無理なく痩せる方法や肥満度チェック法も紹介
まとめ
この記事では、犬の肥満がもたらす病気のリスクや太る原因、BCSによる愛犬の体型チェック方法などを紹介しました。
■犬の肥満まとめ
- 成犬になったときの体重を20%以上うわ回り、皮下脂肪が過剰であれば肥満
- 肥満は特に循環器、呼吸器、関節の疾患のリスクを高め寿命を縮める
- 太る原因は食べ過ぎや栄養過多の食事や運動不足
- 病気が原因である場合は急激に太ったように感じる
- 肥満度はBCSで確認し太っている場合は獣医師へ相談する
- 減量にはダイエット用フード・おやつの制限・おもちゃ遊びを取り入れる
犬の肥満は放っておいて良いものではありません。病気の発症につながるだけではなく、すでに病気を患っている可能性もあります。
愛犬が肥満だと感じたときは、一度獣医師へ相談しましょう。
食べ過ぎや運動不足が原因で体重が増えている場合は、飼い主さんの管理で適正体型まで戻すことができるので、愛犬の健康のためにダイエットに挑戦してみてください。
※参考:Association between life span and body condition in neutered client-owned dogs