犬が食べても大丈夫な生肉
犬は生肉を食べても問題はありませんが、すべての生肉が大丈夫というわけではありません。与える場合は人間の生食用に販売されている「牛肉」「馬肉」が安心でしょう。
牛肉や馬肉は食品衛生法で食中毒菌をなくすための生食用の基準が定められており(※1)、逆に豚肉は生食が法律で禁止されています。
もちろん、鶏肉やジビエ肉(鹿肉や猪肉など)など基準が定められていない肉もあるため判断が難しいところですが、基準がない生肉を食べて食中毒を起こした事例はたくさんあり、特に鶏肉の生食は十分に加熱してから食べることが推奨されている(※2)ので、犬にも鶏の生肉を与えるべきではありません。
各生肉の基準の有無は以下の通りです。
■各生肉の基準の有無と犬の生食の可否
生肉名 |
犬の生食の可否 |
人間での分類(※2) |
牛(筋肉) |
〇 |
〇生食用の基準がある |
牛レバー |
× |
×生食が禁止されている |
牛(内臓肉) |
× |
△基準がない。生で食べて食中毒の事例多数 |
豚(筋肉) |
× |
×生食が禁止されている |
豚レバー |
× |
×生食が禁止されている |
豚(内臓肉) |
× |
×生食が禁止されている |
鶏(筋肉) |
× |
△基準がない。生で食べて食中毒の事例多数 |
鶏レバー |
× |
△基準がない。生で食べて食中毒の事例多数 |
鶏(内臓肉) |
× |
△基準がない。生で食べて食中毒の事例多数 |
馬(筋肉) |
〇 |
〇生食用の基準がある |
馬レバー |
× |
〇生食用の基準がある |
馬(内臓肉) |
× |
△基準がない。生で食べて食中毒の事例多数 |
野生鳥獣肉(ジビエ) |
△ |
△基準がない。生で食べて食中毒の事例多数 |
※筋肉はロース、ひれ、ささみ等肉の部位を指す。内臓肉はハラミやタン、胃や腸等を指す
人間では馬肉を生食できますが、生の馬肉には「ザルコシスティス・フェアリー」という寄生虫がいる場合があり、人間には寄生しませんが犬には寄生します。一定の冷凍処理を行った後、胃液によってザルコシスティス・フェアリーは失活(死滅)するとされて基準も定められているため、適切に処理がされているもの(生食用)を与えましょう。(※3)
また、近年は鹿肉や猪肉などのジビエの生食用の生肉を販売しているところもありますが、E型肝炎ウイルスや病原性大腸菌、サルモネラ属菌、カンピロバクター属菌などさまざまなウイルスや細菌、寄生虫などの病原体を保有していることが明らかになっています。(※4)
適切に処理された肉でないと生肉を食べたことで急性肝炎や食中毒、場合によっては亡くなってしまうリスクがあるため、衛生管理がわからないものや不安な場合は十分に加熱して与えるようにしましょう。
鹿肉やジビエ肉の選び方については以下の記事で詳しく解説しています。
犬に鹿肉を与えるメリットは?腎臓病の犬に与えても大丈夫?注意点やデメリットも
愛犬が喜ぶジビエ肉の選び方・与え方|メリットや注意点、安全に購入するには?
犬に生肉を与えるメリットとデメリット
犬に生肉を与えることをおすすめしているサイトやショップもありますが、生肉にはメリットだけでなくデメリットもあり、必ずしも生肉が犬に良いとは言い切れません。
愛犬に生肉を与えたいと考えている場合では、デメリットをしっかり理解しておく必要があるでしょう。
ここでは、犬に生肉を与えるメリットとデメリットを解説します。
生肉を与えるメリット
犬に生肉を与えるメリット
- 加熱すると失われやすい栄養素を摂り入れられる
- 犬の嗜好性が高い
- 水分が多く含まれる
犬に生肉を与えるメリットは、生肉ならではの栄養素を摂り入れられることや犬の嗜好性が高いということがあげられますが、もうちょっと詳しく見ていきましょう。
生肉を与えるメリット①加熱すると失われやすい栄養素を摂り入れられる
生の肉にはさまざまな栄養素が含まれていますが、加熱することで熱に弱い一部のビタミンやミネラルといった栄養素が失われやすくなったり、酵素が本来の働きをしなくなる可能性があります。
生肉で食べれば、このような加熱すると失われやすい栄養素を摂り入れることができるでしょう。
生肉を与えるメリット②犬の嗜好性が高い
犬はたんぱく質や脂質が多く含まれているものや自然な旨みや甘みを好む傾向にあり、生肉はすべてをカバーしていることから、犬の嗜好性が高いと言えます。
ドライフードのトッピングはもちろん、食欲を刺激したいときなど生肉を与えることで食いつきがアップする可能性があるでしょう。
生肉を与えるメリット③水分が多く含まれる
生肉は加熱したものより水分が多く含まれています。そのため、おやつとして与えたりドライフードにトッピングすることで、あまり水を飲んでくれない犬の水分補給に役立てることができるでしょう。
例えば、牛肉に含まれる水分量は以下のようになっています。
■牛肉に含まれる水分(※5)
※和牛肉 もも 皮下脂肪なしの場合
調理方法 |
水分量(100gあたり) |
生 |
63.4g |
茹で |
50.1g |
焼き |
49.5g |
多くの野菜(90%以上)や果物(70%以上)、もしくはウェットフード(70%以上)まで水分が豊富というわけではありませんが、水分補給の1つの手段にすることはできますね。
生肉を与えるデメリット
犬に生肉を与えるデメリット
- 消化に良いとは限らない
- 細菌やウイルス、寄生虫などに感染するリスクがある
- 家庭内感染のリスクがある
- 人間用の生肉以外では安全面に不安が残る
犬に生肉を与えるデメリットは、細菌やウイルス、寄生虫に感染するリスクがあることです。また、生肉は消化に良いと思われていることも多いですが、必ずしもそうとは言い切れません。
生肉を与えるデメリット①消化に良いとは限らない
生肉は消化に優れているというイメージが強いかもしれませんが、肉類は適度に加熱したほうが消化が良い(※6、7)という研究結果もあり、必ずしも生肉が消化に良いとは限りません。
また、肉類は加熱したほうが旨みがアップする(※8)ため、食欲が落ちてしまった犬の食欲を刺激したい場合は、消化の面でも食いつきの面でも加熱した肉のほうがいいと言えます。
生肉を与えるデメリット②細菌やウイルス、寄生虫などに感染するリスクがあり、家庭内感染の可能性も
生肉には細菌やウイルス、寄生虫がいる可能性があり、適切に扱わないと食中毒を起こすリスクが高まります。
また、海外では生肉を食べた犬の排泄物に含まれていた病原体が人間に感染するという事例も報告(※9)されており、家庭内感染が発生する可能性もあります。
さらに、生肉によるE型肝炎の事例があったり、食事に生肉を食べていた犬では12頭中6頭に甲状腺機能亢進症の症状が見られる(※10)など、食中毒だけではないリスクもあることは理解しておかなければいけません。
生肉を与えるデメリット③人間用の生肉以外では安全面に不安が残る
人間の生食用の牛肉や馬肉には食中毒を防ぐための基準が法律で定められていますが、犬用として販売している場合や明確な基準定められていない肉類では、適切な処理が行われているかわからず、安全面で不安が残ります。
ジビエ肉では、農林水産省がより安全にジビエ肉を提供できるよう衛生管理の基準や流通規格の遵守など適切に取り組む国産ジビエ認証制度を制定しました(※11)が、登録施設は少なく、また販売店がそこから仕入れているかはわかりません。
犬に生肉を与える際の注意点
肉本来の栄養素を摂取できる生肉ですが、愛犬に与える際は注意しなければいけないこともあります。
①食物アレルギーに注意する
犬に生肉を初めて食べさせるときは少量で与え、食べた後は48時間ほど様子を見てあげましょう。
食物アレルギーがある場合、食べてから30分~48時間以内に以下のような症状が見られます。
■犬の食物アレルギーの主な症状
・皮膚の赤みや痒み
・目の周りや口の周り、耳を痒がる
・脱毛
・足先や皮膚を執拗に舐めたりかじる
・下痢や軟便
・嘔吐
食物アレルギーの症状は犬によって異なりますが、上記のような症状が見られた場合は獣医師に相談してください。
犬の食物アレルギーについては、以下の記事で詳しく解説しています。
犬のアレルギー(食物・アトピー・ノミ)原因・対策を徹底解説【皮膚科医取材】
②与え過ぎない
おやつやトッピングとして生肉を与える場合、愛犬が1日に必要な摂取カロリーの10%程度(多くても20%以内)のカロリー分にしましょう。
与え過ぎは栄養バランスの偏りや肥満の原因となってしまいます。
また、愛犬の体調や便の状態はもちろん、体型や活動量、ライフステージなども考慮して与える量を調整することが大切です。
■各生肉の100gあたりのカロリー(※5)
生肉の種類 |
カロリー |
牛:和牛 もも 皮下脂肪なし |
212kcal |
牛:和牛 ヒレ 赤肉 |
207kcak |
馬:赤肉 |
102kcal |
鹿:エゾ鹿 赤肉 |
126kcal |
鹿:アカシカ 赤肉 |
102kcal |
肉類は種類によってカロリーが異なります。以下に、体重別に犬が1日に必要な摂取カロリーと10%分のカロリーをまとめたので、与える量の参考にしてください。
■【体重別】犬が1日に必要な摂取カロリー
※避妊・去勢済みの成犬で算出
愛犬の正確な摂取カロリーが知りたい場合は、以下の記事で計算方法を詳しく解説しています。
【獣医師監修】ドッグフードの正しい与え方!パッケージの給餌量はあくまで目安
③脂身はカットして与える
生肉を与える場合は、脂身の部分はカットして与えましょう。
脂質は大切な栄養素ですが、過剰に摂取すると消化に負担がかかって下痢や嘔吐を引き起こす可能性があります。
④人間の生食用の生肉を与える
販売されている生肉には「生食用」と「加熱用」がありますが、人間の生食用に販売されている生肉のほうが安心です。
加熱用の肉を生のまま与えると、細菌やウイルス、寄生虫などによる健康障害のリスクが高まるため、必ず生食用の生肉を与えるようにしてください。
また、生のレバー類は鮮度に関わらず細菌やウイルス、寄生虫がついている可能性があるので、たとえ生食用で販売されていても与えてはいけません。
【獣医師監修】犬はレバーを食べても大丈夫!1日に食べられる量や注意点、おすすめおやつ
⑤生肉を食べたことがない犬や子犬・シニア犬では特に慎重に
生肉は犬の体質によって合わないことがあったり、食べ慣れていないことで下痢を起こすこともあります。子犬では消化機能が未発達のため、消化に負担がかかって下痢や嘔吐を引き起こす可能性も否定できません。
また、食中毒菌や寄生虫などの問題もあるため、免疫力が低下しているシニア犬では慎重に考えてあげることが大切です。
⑥持病がある犬は獣医師に相談してから与える
生肉はたんぱく質もその他栄養も豊富なため、特に栄養素の制限を指示されている犬では、必ず獣医師に確認してから与えるようにしましょう。
また、持病がある犬やシニア犬も獣医師に確認してから与えたほうが安心です。
犬に生肉を与えるときによくあるQ&A
ここでは、犬に生肉を与えるときによくある疑問をQ&A形式でご紹介します。
豚肉を生で食べたけど大丈夫?
A.犬が生で豚肉を食べた場合、獣医師に電話で相談しておくと安心です。
ただし、下痢や嘔吐などの症状が見られたときは、早急に動物病院を受診してください。
生肉はどこで買うの?
A.スーパーや一部のペットショップ、通販サイトで購入することができます。
ただし、生肉で食べさせる場合は「生食用」として販売されているものを与えましょう。
スーパーの生肉を与えても大丈夫?
A.スーパーで「生食用」として販売されている生肉であれば犬に与えも大丈夫です。
ただし、スーパーによっては加熱用しか販売していないこともあるため、よく確認するようにしてください。
子犬に生肉はいつから与えていい?
A.子犬に生肉を与える場合、消化器官が整う生後6ヶ月以降にしましょう。
生肉は消化に負担がかかるため、6ヶ月以降で与える場合は少量にとどめておいてくださいね。
まとめ
犬は生肉を食べることができますが、与えていいのは生食用の生肉です。
また、細菌やウイルス、寄生虫などの感染リスクを考えると、人間の生食用に処理されている生肉のほうが安心です。
生肉には肉本来の栄養を摂り込めるというメリットがありますが、デメリットもあるため、注意点に配慮しながら正しく与えるようにしましょう。
【獣医師監修】犬が食べていいもの一覧!野菜・果物・肉類など与えるメリットと注意点
犬が食べてはいけないものを解説!36種類の症状や対処法、加熱調理が必要な食材も紹介
<参考文献>
※1:厚生労働省告示第321号 平成23年9月12日「官報」
※2:千代田区「肉の生食には注意しましょう」
※3:熊本県「生食用生鮮食品(ヒラメ、馬刺し)による食中毒に注意しましょう」
※4:厚生労働省「ジビエ(野生鳥獣の肉)の衛生管理」
※5:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
※6:J-STAGE「食肉の消化率に及ぼす加熱の影響ーペプシンー」
※7:J-STAGE「食肉の消化率に及ぼす加熱の影響ーパンクレラチンー」
※8:熊本畜産協会「加熱による食肉の変化」
※9:農林水産省「ペットフード原料の解体処理のポイント」
※10:JSAP「Dietary hyperthyroidism in dogs」
※11:農林水産省「国産ジビエ認証制度」
執筆者
- ペットライター
-
たかだ なつき
- JKC愛犬飼育管理士 / ペットフーディスト / 犬の管理栄養士 / ペット看護士 / ペットセラピスト / トリマー・ペットスタイリスト / 動物介護士 / ホリスティックケア・カウンセラー