ワンちゃんが急に後ろ足が立たなくってしまった…それはもしかしたら椎間板ヘルニアかもしれません。ダックスフンドに多いこの病気について詳しく解説します。

【獣医師執筆】犬の椎間板ヘルニアとは?原因・症状・治療|お家でできる予防法

監修者
- 獣医師
- 高橋 渉
2011年北里大学獣医学部獣医学科卒後、都内と埼玉の動物病院に勤務。2018年東京都杉並区に井荻アニマルメディカルセンターを開院しました。犬猫に優しい病院作りを目指し、キャットフレンドリー、フェアフリーなどの取り組みを行っています。(所属学会:小動物歯科研究会・比較歯科学研究会所属)
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目次
椎間板ヘルニアとは
椎間板とは、椎体という複数ある背骨を構成する骨と骨との間にあり、背骨の柔軟な動きを助けるクッションのような作用をしている部位です。椎間板は、内側が髄核、外側が線維輪からなっています。ヘルニアとは、身体の一部の筋肉や膜が弱くなることによって作られた隙間などに本来にはない臓器などが入り込んでしまうことです。椎間板ヘルニアは、椎体と椎体の間にある椎間板がヘルニアを起こし、その上の脊髄神経を圧迫して、神経障害を起こしてしまう病気です。
椎間板ヘルニアには、二つのタイプがあり、一つは内側の髄核が硬くなることで外側の線維輪が損傷し、髄核が飛び出ることで神経を圧迫するハンセン1型、もう一つは外側の線維輪そのものが突出して神経を圧迫するハンセン2型があります。
椎間板ヘルニアの原因となりやすいワンちゃんの特徴
軟骨異栄養犬
ダックスフンド、ビーグル、コーギーなど
椎間板ヘルニアの原因は、犬種や加齢などがあります。椎間板ヘルニアになりやすい犬種は、軟骨異栄養犬種と言われる犬種です。
軟骨異栄養犬種とは、ダックスフンド、ビーグル、コーギーなどがいます。この種のワンちゃんたちは、1歳以降で椎間板の髄核が硬くなり始め、徐々に線維輪を損傷していき、最終的に線維輪が破られ、髄核が脊髄神経の方向に出てしまうハンセン1型がみられます。
年齢としては、ダックスフンドは3~7歳に多く見られます。特に肥満体形の子や、活発で過度に動き回る子で起こりやすいです。また、他の犬種のワンちゃんでは、主に加齢に伴って、線維輪の肥厚から神経が圧迫されるハンセン2型が見られます。
椎間板ヘルニアの症状
ヘルニアの症状は、下記のものが挙げられます。
ヘルニアの症状
- 抱き上げたとききゃんと鳴く
- 背骨を曲げた姿勢をとる
- じっと動かない
- 元気、食欲の低下
- 後ろ足もしくは四肢がふらつく
- 立てなくなる
- 意識して尿が出せない
また、ふらつきなどの神経症状は、ヘルニアが起こってしまった背骨の部位から後ろで起きます。例えば、腰にヘルニアが起きた場合、腰よりもしっぽ側の後ろ足や便、尿を出す神経などに影響を及ぼします。首にヘルニアが起きた場合は、前足~しっぽまでの神経に影響を及ぼします。
犬種によってヘルニアになりやすい部位が異なり、ダックスフンドは、腰の付近の椎間板ヘルニアになりやすいです。
症状は、ヘルニアが起こる位置やその髄核の出方、線維輪の肥厚の程度などによって現れる症状やその重症度が異なります。その症状の重症度によって下記の5つのグレードに分けられます。
グレード1:痛がるが通常通り歩ける
グレード2:歩けるけれどもふらついたり、反応が鈍くなったりする
グレード3:歩くことができなくなる。自力で足を動かせなくなる
グレード4:歩くことができず、自力で足を動かせなくなる。また、尿を自分で意識して出せず、漏れてしまう。足先の骨を強くつかむと痛みを感じる
グレード5:歩くこと、足を動かすこと、意識的な排尿ができず。さらに、足先を強くつかんでも痛みを感じない
椎間板ヘルニアの診断
椎間板ヘルニアの診断
- 問診
- 神経学的検査
- レントゲン検査
- MRI検査
などがあります。
① 問診
問診では、いつからどのような症状があったのか、症状が起こったきっかけはなかったか、便や尿は出ているのかなどを確認します。椎間板疾患ヘルニアを起こしやすい犬種、年齢などを考慮し、次の検査を検討します。
例えば、ダックスフンドなどに起こることが多いハンセン1型の場合は、多くが3~7歳で何かの運動をきっかけに急性に起こることが多いです。
② 神経学的検査
神経学的検査は、痛みや触覚、動きなどを調べることで、神経の障害の程度や位置を確認します。
例えば、足先を曲げて、足の甲の部分を地面につけるようにします。すると通常であればその向きに足が向いていることがおかしいと判断し、肉球を地面に付こうと動きます。しかし、神経がマヒしていると足の甲をついたままにしてしまう、もしくは、戻すのが遅くなってしまいます。他には、足の先を強い痛みを与えることでその反応から痛覚の異常を確認する検査などを行います。
③ レントゲン検査
レントゲン検査は、椎間板ヘルニアそのものを診断するためというより、多くの場合椎間板ヘルニア以外の疾患を鑑別するための除外検査として有効になります。
例えば、脊椎の骨折や脱臼などを起こしてしまっていた場合には、レントゲンによって診断がつくかもしれません。
④ MRI検査
MRI検査は、磁気の共鳴を利用した検査で、レントゲン検査やCT検査よりも脊髄を検査するのに適しています。MRI検査によって脊髄の状態を確認することができ、ヘルニアの位置や発生の重症度などを確認することができます。また同時に脊髄軟化症という非常に危険な疾患についても確認することができます。
脊髄軟化症とは、グレード5のような重いヘルニアの際などにおこる進行性の壊死性の疾患で、強い圧迫を受けた神経が壊死してしまい、それが頭の方やしっぽの方に壊死が進行していく恐ろしい病気です。これが起こってしまうと徐々にヘルニアの症状が、最初は後ろ足だけの症状でも、徐々に前足へと進み、次に呼吸をするための神経などにも影響を及ぼし、数日でワンちゃんを死に至らしめてしまいます。また、この病気は、治療法がないため発症してしまうとご家族としては、とても悲しい結果となってしまいます。
椎間板ヘルニアの治療
椎間板ヘルニアの治療は、その重症度などによって内科治療と外科治療が選択されます。
① 内科治療
絶対安静
グレードの1や2などの時は、多くの場合私は内科治療が選択します。内科治療で、最も大切なことは絶対安静です。
しかし、ワンちゃんに動くなと言っても多くの子は、普段通りに歩いて、散歩やご家族の所に向かおうとするでしょう。そのため、絶対安静にさせるためには、ワンちゃんが立つことと座ることだけができるスペースのみのケージに入れて、ワンちゃんが動きたくても動けない状態にするということが大切です。普段使用しているケージに段ボールなどを置いて部屋を狭くしてあげましょう。
そして、そのケージの中で状態にもよって長さは変わりますが1~数週間程度我慢して暮らしてもらいます。もし自宅だと安静にすることが難しい場合などは、病院で入院させながら安静にさせます。こうすることで、多くは徐々に改善していきますが時に悪化していく場合もあるので注意が必要です。当初のグレードから徐々に悪化していく場合、外科の再検討や脊髄軟化症などを考慮しなければならない場合もあります。
鎮痛剤の投与
鎮痛剤の投与については、担当の獣医師によってそれぞれ考え方が異なるかもしれません。痛みがあるのであれば使いたいと思いますが使うことによってワンちゃんが元気に動き回ってしまうと安静できず悪化してしまう恐れがあるためです。
私の場合は状態によって、食欲がなくなるような強い痛みがある場合は、短い期間使うことが多いです。
サプリメント、ビタミン剤
神経保護作用や神経再生促進作用、抗炎症作用などを含む種々のサプリメントやビタミン剤などがあります。サプリメントに関しては、使用するかどうかは担当の獣医師と相談のうえ試してみるのもいいでしょう。
② 外科治療
内科治療での回復が不十分であったり、グレードが高かったりする場合では外科治療が選択されます。グレードが低い場合でも、内科治療に比べて回復が速かったり回復率が良かったりする場合もあり、ご家族と相談のうえ外科を検討する場合があります。
また、足の痛みの感覚がなくなっているグレード5のワンちゃんでは、速やかに手術を行わなければ改善率が著しく悪くなっていくため、早期の診断と手術が必要となります。
しかし、MRIなどで脊髄軟化症が見つかっている場合は、残念ながら手術を行っても治癒が困難なため行いません。また、術後に脊髄軟化症が進行する場合もあるので注意が必要です。椎間板ヘルニアの手術方法はいくつかあり、ヘルニアが発生している部位などによって担当の獣医師が手術法を検討します。
ダックスフンドなどによく起こるハンセン1型の腰のヘルニアには、片側椎弓切除術というやり方がよく行われます。片側椎弓切除術は、背骨の椎弓という部分の骨を一部削り、脊髄神経を露出させ、その隙間から特殊な器具を用いて、飛び出してしまった髄核を取り除く方法です。髄核を取り除くことで神経への圧迫が解除され、神経の電気信号が正常に戻っていきます。
椎間板ヘルニアの治療費
椎間板ヘルニアの治療費
MRI検査の費用:10万円程度
鎮痛剤などの費用:数千円程度
椎間板ヘルニアの治療費は、そのグレードとどのような治療をするかによって異なります。まず、治療に入る前の診断の段階で必要なMRI検査の費用が10万円程度はかかります。
そして、内科治療になるようならば、鎮痛剤などの費用が数千円程度になります。
しかし、もし外科手術となると施設や手術の方法にもよりますが手術費用が1部位当たりで10~30万円程度かかるかもしれません。
椎間板ヘルニアの予防
椎間板ヘルニアは、再発率がとても高い疾患です。内科治療による再発率は、約30~40%程度と言われており、複数ある椎間板の数だけリスクがあります。そのため、治療後の予防が大切になります。予防法としては下記のものが挙げられます。
- 体重管理
- 生活環境の整備
- 抱っこの仕方
- コルセット
① 体重管理
肥満による体重増加は、足腰に負担をかけてしまいます。体重を適正に保つことで負担を減らしてあげましょう。
② 生活環境の整備
滑りやすいフローリングや足の裏の毛が延びている状態だと滑ってしまい関節に負担をかけてしまいます。また、段差などの上り下りもヘルニアが発症するきっかけになってしまうことが多々あるので、ソファーや階段などの段差には極力気を付けて、必要であれば段差が緩和されるように階段を追加してみたりしてあげてください。
③ 抱っこの仕方
ワンちゃんを抱っこする際には、基本的に地面に対して平行を保つように横向きに抱っこしてあげましょう。赤ちゃんを抱きあげるように脇に手を当てて持ち上げるやり方は、腰に強い負担を与えてしまうので注意が必要です。
④ コルセット
最近では、ヘルニアを起こしたワンちゃんの身体に合わせたコルセットがオーダーメイドで作ることができます。コルセットを装着することで背中や首を安定させ、再発を防いでくれるかもしれません。
椎間板ヘルニアの後遺症との付き合い方
椎間板ヘルニアになっても治療によって無事通常通りの生活に戻れる子もいれば、大なり小なり後遺症が残ってしまう子が少なくありません。
特に完全に歩けなくなってしまうとワンちゃんは当然のことながらご家族も精神的につらい気持ちになってしまいます。しかし、もしそうなってしまってもワンちゃんのその後の犬生がより良きものとなるように、ケアしていきましょう。ケアの仕方についていくつかの方法をあげてみます。
ケアの仕方
① 尿の管理
② 歩行補助器具の使用
③ 床ずれ対策
④ 皮膚のケア
① 尿の管理
ヘルニアの重症度が高く、自力で尿が出せなくなってしまうと、もうこれ以上膀胱が尿を貯められなくなるまで溜まってから漏れ出してきます。
この状態は、良くない状態です。膀胱は、一定量溜まったら完全に膀胱が空になるまで一旦出さないと膀胱内に細菌が発生し、膀胱炎になってしまいます。
細菌性の膀胱炎は、そのままだと腎臓など全身的な影響を及ぼし命に関わってしまう場合もあるので注意していかなければなりません。また、尿が漏れ出てしまうとそれが周囲の皮膚に付着し、その部分に感染症が引き起こされてしまうかもしれません。そのため、自力で尿が出せなくなってしまった場合、ご家族がしっかりと尿を定期的に空にするサポートをしてあげましょう。ご自宅で行う方法としては、下記の2つが挙げられます。
圧迫排尿
ご家族がお腹の外から膀胱を手で優しくつかみ、ゆっくりと圧を加えることで膀胱の尿を出してあげる方法です。
この方法は、最初は膀胱の位置などがわかりづらく難しいかもしれませんが、慣れると水風船のような感触がわかるようになり比較的簡単に行うことができます。しかし、注意点として、圧迫した際にある程度の量が外ではなく腎臓の方に戻ってしまうため、腎臓への負担が起こる可能性があります。そのため、定期的な尿検査や血液検査を行い、こまめに状態を確認しましょう。
カテーテル排尿
男の子のワンちゃんなどの場合は、ペニスの先端からカテーテルという細い管を入れ、膀胱から直接尿を出してあげることができます。こちらも最初は難しく感じるかもしれませんが慣れると比較的ご自宅でも容易にすることができます。
女の子では、尿の出口が奥の方にあるためご自宅でこのやり方をするのは難しいかもしれません。このやり方の注意点としては、カテーテルを入れる際は清潔に保つこと、カテーテルを奥に入れ過ぎないことが挙げられます。
カテーテルが細菌などに汚染されてしまっているとそれが膀胱に入り込んでしまうため、カテーテルを入れる際はペニスの周囲の消毒やカテーテルを周りにつけて汚さないようにしてあげてください。カテーテルを入れていき、尿が出てきたらそれ以上奥には入れないようにしてください。
誤ってカテーテルを入れすぎてしまうと、時に膀胱内でカテーテルが結び目を作ってしまう事故が起こることがあるためです。そうなってしまうとカテーテルを抜くことができず最悪の場合、手術になってしまうこともあります。そういった事態を防ぐために、あらかじめその子に必要なカテーテルを入れる長さを決め、それ以上にカテーテルを入れないように注意しましょう。また、やはりカテーテル排尿を用いていても細菌性の膀胱炎のリスクはあるので定期的に尿検査を行いましょう。
以上のように圧迫排尿もカテーテル排尿もどちらも注意点がありますので獣医師に十分に指導を受けてから行うようにしましょう。
② 歩行補助器具の使用
最近では、車いすなどの歩行補助器具が良いものが多く売られています。これらを用いることで今までのようにワンちゃんが好きに動くことができその姿は大変うれしそうに見えます。けれど、時にそのサイズ感や使用方法によって擦り傷ができてしまったりすることもあります。使用する際は各メーカーの使用上の注意点をよく読んで適切に使用するようにしましょう。
③ 床ずれ対策
足が不自由になると同じ位置に同じ姿勢でいることが多くなってきます。すると寝たきりの時のように骨の当たる場所などが血行不良を起こし床ずれになってしまいます。そのため、定期的に身体の向きを変えたり、床ずれ防止用のマットを用いることでそれを未然に防ぎましょう。
④ 皮膚のケア
また上記の対策を行っても、便や尿などによって体が汚れ皮膚病が起こりやすくなってしまいます。そこで、汚れやすいところなどは毛を短く保ち、一日何回かはタオルシートによる清拭を行ったり、定期的にシャンプーをして清潔を保ちましょう。
まとめ
椎間板ヘルニアは、脊髄軟化症のような重篤な例を除き、命に関わることは少ないですが生活の質に大きく関わる病気です。
そのため、疑う症状が出た場合早く診断、治療を行い、可能な限り後遺症が残らないようにしてあげましょう。そして、もし後遺症が残ってしまった場合にも適切なケアを行い、元気に暮らせるようサポートしてあげましょう。
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執筆者
- 獣医師
- 高橋 渉
2011年北里大学獣医学部獣医学科卒後、都内と埼玉の動物病院に勤務。2018年東京都杉並区に井荻アニマルメディカルセンターを開院しました。犬猫に優しい病院作りを目指し、キャットフレンドリー、フェアフリーなどの取り組みを行っています。(所属学会:小動物歯科研究会・比較歯科学研究会所属)